第二十二話「出会いとドラマ」-Skit-

14th Oct 2020 by

 

 

先日あるきっかけで行った食事会で、

一人の男性がこんな話をしていた。

 

「30代後半、このタイミングで旅に出たのは正解だと思ってますね。もし若い時だったら金も無かったからやりたい事もできなかったと思う。それに今の方が感じられることも多いと思うんですよ。大人になったからこそ冷静にものを見れたというか。痛い目にもほとんど合わなかったですし。」

 

彼はついこの間まで1年間バックパッカーをしていたらしい。

30代後半でバックパッカーをやることは、

勇気ある行動だと思う人も少なくないと思う。

実際に彼のように行動に移せる人もなかなかいない気がする。

私はそう言う意味でも感心して彼の話を聞いていた。

ただ彼のさっきの言葉を聞いた時から、

普段は右から左に抜けていく人の雑談が、

何かが途中で引っかかり上手く抜けていかなくなっていった。

 

何か気持ち悪い感じ。

 

否定したくないけど内心は否定してしまっていたのか。

自分の過去の行動を肯定したいだけなのかもしれないが、

この類の質疑は過去に何度も自分に投げてきたものでもあった。

20代中盤から貧乏旅をしてきた私は、

いわば彼とは180°真逆の環境だった。

金もいつもギリギリで、若さ故の間違いも何度も犯してきたし、

振り返ると人には言えないような事も多々ある。

今思い出すだけでも両手じゃたら足らないほど。

 

そして旅から帰ってきてから何度か考えた。

 

やっぱ旅に行くの早かったか?

 

今だったらもっと…

 

どのページをめくっても必ずどこかの段落でこの言葉が出てくる。

 

3つの点の先は無限に出て来そうだ。

 

経験値と共に失敗の数は自然と減っていった。

というより失敗しない方を選ぶようになっていったのかもしれない。

時間を重ねていくうちに自然と変わっていく物の見え方は、

今まで貫いてきた事を曲げるようで痛くて変に悔しかった。

年齢なんて関係ないと自分自身今でも思っているけど、

経験の量と好奇心や行動力は反比例していくのかもしれない。

何でも初めての瞬間は胸が躍るものだし、

20代ぐらいの頃は危険や不安も無視して進めるんだけど。

 

貧乏旅で危険も顧みずトラブルに自らダイブしていた頃、

チャイナエアラインのエコノミーが当たり前だった。

ニューヨークに向かうにも普通12時間のところが23時間かかる。

ホテルにも泊まれなかったし無論欲しい服も買えない。

6人部屋の激安宿に泊まり各国でハスりながらの日銭生活だった。

写真を撮りに街出る度に高級ホテルを見て羨ましく思っていたし、

旨そうな匂いのするレストランのメニューを見る度値段に白目を向いてきた。

それから帰国して数年が経って経済的にも精神的にも余裕が生まれ始めた。

帰国後も世界を歩く事は続けて1年の約3分の1は海外での生活を送り、

そして余裕が生まれて調子に乗り始めたのが最後。

あの頃の憧れがここぞとばかりに爆発した。

ANAのビジネスクラスに乗り、各国で高級ホテルに泊まり、

高級レストランで飯を食い、ハイプなクラブでシャンパンを飲む。

ちょっと前じゃ考えられない状況だったが、

思いつくあの頃の憧れをとにかく色々やってみた。

最初は夢見心地な優越感が溢れて、

 

これだよ!これ!って感じ。

 

でも続けていると憧れていたハイプも当たり前になって、

少し冷静になった時に憧れを得た変わりに失ったものに気がつき始める。

 

それは毎日に”出会い”と”ドラマ”が無くなったこと。

 

気がつけばあの頃は当たり前だった、

常識をぶち壊してくれる面白い奴にも全く出会わなくなり、

心を動かすようなドラマも全く起きなくなっていた。

 

なぜか。

理由は簡単だった。

 

本気で人と触れ合うことが無くなったからだ。

例を挙げるなら高級ホテルで他人と話す事はほとんど無い。

毎日繰り返すのは「Hi! How are you??」

こんなエレベーター前での嘘くさい適当な挨拶ぐらい。

金が流れる場所は基本的にリテラシーが高い人間が多いからか、

良く言えば予想外のことは起こらないが、

悪く言えば当たり前のことしか起こらない。

でも激安宿では話は別だ。

嫌でも毎日誰かに話しかけられるし新入りも頻繁に入ってくる。

すると必然的に色んな国のアタオカ達に出会い、

何か面白うな初めて嗅ぐ匂いに引っ張られ、

ついて行った先で何かしらのトラブルが起きる。

実はここが重要だったと今は思う。

トラブルの中には色んな大切なものが入っていて、

パニックになった時こそ本当の自分が見えるし人も見える。

本当に辛い時こそ本当の友達が分かる感じに近い。

内面が試されるこの瞬間だけは見た目も貧乏も金持ちも関係くて、

お互いが本心を見せ合うタイミング。

いい思い出でも嫌な思い出でも、

ピンチとか爆笑は共有すると相手との仲は一気に縮まる。

記憶に残ることを誰といくつ残せるか。

今はそれが一番大切だと思える。

 

だいぶ話は脱線してしまったけど、

つまり何が言いたいかと言うと、

旅をするのにタイミングは関係ないと言う事。

今旅をしたらきっと全く別の感覚を得るだろうし、

逆に言えばあの時旅した時の感覚は今は得られない。

その時々のタイミングで学ぶ事や感じる事は、

その時のあなたにきっと必要な事だから感じ取れることです。

 

だから旅にタイミングは関係ない。

 

行きたいと思った時がいつもベストタイミング。

 

金じゃ見えない景色もありますよ。

 

貧乏旅最高です。

 

 

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