第十二話「キングストンのギャングスターのび太」-前編-

5th Aug 2020 by

 

 

 

 

「ご無沙汰しています!インターナショナルマザファッカーです!」

 

 

先週このブログを読んだドイツの回で紹介した後輩本人からメールがきた。

全部読んでいます。は嬉しかった。

元気で何より。生きてて何より。

毎週読んでくれている皆さんありがとうございます。

メールくれる皆さん、それ一番やる気出ます。

 

今回で折り返しの十二話目。

 

この3ヶ月間今まで出会って来たいろいろな人達にフォーカスを当てて、

このブログの中で紹介してきました。

アメリカ生活から始まりその後一人旅に出て、

本当に様々な人達に出会ってきたと書いていて毎度実感しています。

 

出会いは財産だ。なんて言葉聞いたことがありますが多分それはホントです。

 

他人からすれば何でもない情景も自分にとっては特別な思い出が蘇る。

それがいい思い出なのか悪い思い出なのかは別として、

そんな経験は誰にでもあると思います。

私はそんな瞬間瞬間に豊かさを感じます。

大袈裟に言えば、生きててよかったなと思う。

なぜかはわからないけど。

 

豊さの実感は個々違う物だと思うけど、

物欲と性欲と食欲。

この3つ以外に幸福を感じられるのなら、

それは”豊か”な事だと個人的には思います。

匂いや気温や音のような形の無いものが引き金となり、

私の場合で言えば、ただのクソ暑い夏の日は朝からハッサンを思い出し、

グッチの蛇のデザインを見る度にマイクとサマンサを思い出すし、

競馬の音を聞くとじーちゃんを思い出し、

絵を描いている少女を見るとヤーイーを思い出す。

 

その度こんな幸せな事ないな。と思います。

 

過去に戻れるわけでもなく手に取ることすらできないものなのに、

幸福感でいっぱいになる。

経験って言ったら硬い感じがするけど、要は思い出。

失敗も成功も幸福も憎しみも思い出。

 

思い出は大切にしてください。

 

という事で今回は世界で思い出を集め始めた、

“初めての海外”の事を書いてみたいと思います。

 

Akilla君すみません。

やっぱり短く書けないです。

 

 

19歳、冬。

大学一年の夏休み。

人生初めての海外はジャマイカだった。

1人で異国での海外生活がしてみたい。

理由はいつも通りシンプル、ただそれだけだった。

 

2月上旬。

冬休みに入ってすぐに飛行機のチケットを買い、

先輩に海外用の大きなスーツケースを借りて準備を整えた。

当時はTSAキー付きのスーツケースなどもあまりなくて、

借りた緑色のスーツケースはプラスチックの箱みたいな感じだった。

 

ジャマイカへは日本からアメリカを経由して向った。

乗り継ぎの不安はあったけど、

初海外の興奮は余裕で不安を上回っていた。

当日は搭乗3時間前にしっかり成田に到着。

問題なく出国手続きを済ませて飛行機に乗った。

 

これが国際線か。

外人だらけじゃねぇか。。

 

初めての国際線に期待感しかなかった。

激狭のエコノミーシートにすら感激したぐらい。

今ではクソ不味い機内食すらその時はうまく感じた。

あの時窓際からみた初めて見たアメリカ大陸は多分一生忘れない。

機内では興奮しすぎて一睡もせず、10時間かけて経由地ダラスに到着した。

真っ新なパスポートのジャパニーズ小坊主は当然のように入国で足止めを食らう。

 

19歳日本人ジャマイカに2ヶ月滞在。

 

「何しにいくんだ?」

 

それ以外聞かれていることすら意味もわからず、

とにかくI don’t know. I don’t knowの応酬。

当たり前のように個室行きになった。

状況も理解できないまま連れて行かれた個室には、

すでにテンパリまくってる中国人の夫婦と、

イスラム系のターバン野郎のガチ勢が何人かいて、

何ていうか赤点の補習授業のような感じだった。

 

自分が入国管理官でもこいつらは止める。

そんな連中しかいない個室の入国審査室は怪しさ150パーセントだった。

 

それから根掘り葉掘り質問され何とか入国。

したはいいものの、入国に時間がかかりすぎて乗り継ぎ便に乗り遅れてしまった。

当初の予定ではダラスからマイアミ、

マイアミからジャマイカ。

アメリカでの滞在はない予定だったが、

急遽その日最終のマイアミ便に乗ることとなり、

マイアミで一泊することとなった。

 

マイアミに着いたのは午後7時頃。

眩しすぎるサンセットは着色料全開のオレンジジュースみたいな色だったのを覚えている。

目的地のジャマイカへは明日の早朝便。

ホテルを取る金も語学も度胸もなく、空港に一泊を余儀なくされた。

加えて全財産の入ったスーツケースだけはすでにジャマイカに飛んでいて、

持っていたのは小さなリュックサックと、

ポケットに米ドル数十ドルとパスポートだけだった。

トラブル続きで乗り継ぎ便の機内食は喉を通らず、

マイアミにつくなりスーパーを探しに空港近くを歩くことにした。

あの頃は今よりも各段に治安も悪くて、

全米中でも有数の犯罪シティーの空港近くを、

アジア人のガキが歩く方がどうかしていたと今では反省している。

 

携帯電話もGPSも当然ない。

言葉もほぼわからない。

歩けど歩けどスーパーもない。

あるのは戸建てのアメリカらしい家々だけ。

それでも初めて嗅ぐ海外の空気に気分は上がった。

同じ空でも日本と全然違う空と海外の匂い。

初めてハイになった高校生の時のように、

あの時のあの感覚は二度と味わえない気がする。

 

いくら歩いても一向にスーパーはなかった。

団地に迷い込んだ私は徐々に危機感が芽生えはじめていた。

さっきまでの空腹感から一気に恐怖心に変わっていき、

急ぎ足で来た道を戻りはじめた。

角を曲がるとさっきはいなかった、

黒人の二人組みがアメ車に持たれかかり屯していた。

 

やばい。

 

経験値激低の自分でも感じる危険な感覚。

平常心を強引に保ち、目を合わさずその場を過ぎようとした。

 

彼らは目でなぞる様に静かに私を見続ける。

 

大丈夫。いける。絶対大丈夫。何度も言い聞かせた。

 

願い通り何も起こらなかった。

炭酸の蓋を開けたような開放感に一気に安堵に包まれた。

だけど今振り返るのは危険だと思い

とにかく前だけを見て歩き続けた。

 

大丈夫。大丈夫。

 

一歩一歩急ぎ足で歩いた。

デニムが擦れる音がいつもより早い。

そしてその一定のデニムのリズムに、

後方から加速する足音が津波のように重なってきた。

 

終わった。

 

そう思った時には字面に叩きつけられ、頭を思いっきりぶつけた。

そしてマウントを取られて額に重厚感のある冷たいものが当たっている。

 

銃だった。

 

そこからはあまり記憶がない。

覚えていることは小便を漏らし、謎に半端じゃない勃起をしたことだけ。

人間は本当に死ぬと感じた時反射的に生命を残そうとするらしい。

 

黒人は物凄い勢いで怒鳴ってくる。

 

「ノーマネー!ノーマネー!ノーイングリッシュ!」

 

ただただ震えながら叫んだ。

胸ぐらを思いっきり掴まれ振り回される。

着ていた白の無地ティーも首元から肩にかけて裂けて、

小便を漏らした私にギャングは唾を吐き、

ポケットに入った数十ドルを取り彼らは車に一瞬戻った。

何言ってるか全くわからない。

とにかく今しかないと思った。

 

猛ダッシュした。

とにかくダッシュ。

 

撃たれるとか考えもしなかった。

ビショビショで重くなったデニムを引きずるようにとにかく逃げた。

彼らは追ってこなかった。

信じられないほど涙が出て、

一生こんなとこ来るかと思いながら泣きながら空港まで走った。

 

空港に着いた頃にはすでに空は暗くなっていた。

入り口の自動ドアから空港に入るなり、ほぼ全員が僕を見ていた。

そりゃあそうだ。

ビリビリに裂けたティーシャツにお漏らしデニム姿。

100%なんかあったやつの風貌だったから。

寝れそうなベンチを見つけて座ったら自分の情けなさにまた泣けてきた。

そこに150キロぐらいありそうな髭面の白人おじさんが歩み寄ってきて、Tシャツをくれた。

胸元にデカデカとシカゴと書かれたグレーの3xlの馬鹿でかいTシャツ。

 

デカすぎて笑えてきた。

同時に知らないおじさんの優しさにまためちゃくちゃ涙が出た。

ジャマイカに着くまで一文なしになった私は、

とにかく夜が開けるのを空港のベンチで待った。

寝られる訳もなく、近くに人がくるだけで恐怖だった。

黒人怖すぎ。って感じだった。

夜が開けてキングストン行きの便の搭乗が始まった。

小便くさいデニムに3xlのシカゴティー。

もう服装も匂いもクソも関係なかった。

とにかく早くこの場を離れたい。

マイアミなんて一生来るか。

 

飛行機に乗りキングストンへ向かった。

キングストンへは大体1時間30 分くらい。

40分くらいすると機内にいても感じる気温の変化を感じた。

カリブに向かっている実感が湧いた。

着陸した瞬間皆が拍手をする。

 

なぜ?

 

そんな賭けみたいな飛行機に乗っていたのかと思ったけど、

ジャマイカ便の恒例の行事だと後で知った。

 

ジャマイカ、首都キングストン。

入国審査は簡単に終わった。

頭の中はスーツケースの行方。

税関の前で流れるベルトコンベアーの前に、

見覚えのある緑のスーツケースが見えた。

生き別れた兄弟にでも再会したかのように嬉しくて、

久しぶりの安心感に抱きしめられた。

税関を抜けて出た先はまるで刑務所のようだった。

柵の向こうから無数のタクシードライバーが叫んでいる。

 

「ジャパニーズ!!!!!」

 

怖すぎた。

出発前に先輩からジュタという国営のタクシーを使えと言われていて、

ナンバープレートがピンクのタクシーだと知っていた。

とにかくナンバープレートがピンクの車だ。

もはや黒人恐怖症の私は360度黒人のこの国でやっていけるのか不安しかなかった。

そこにボーズ頭の背の低い丸々としたジャマイカ男が片言の日本語で話かけてきた。

 

「俺、のび太。」

 

びっくりし過ぎて立ち止まってしまった。

久々の日本語だったのもそうだが、その言葉に立ち止まった。

 

「のび太?あなたがのび太?のび?ドラえもん?」

 

「俺、のび太!タクシー?」

 

「そうタクシー。ジュタ?のび太はジュタ?」

 

「ジュタ!ジュタ!」

 

こんな面白い奴で国営タクシーなら乗らない手はない。

のび太に案内されて車まで向かうことにした。

車のナンバーは真っ白。

完全に白タクだった。

でも言葉が分からなくて上手く伝えられない。

出発してからまだ約48時間。

入国審査から始まり言葉の壁をすでに相当感じていた。

言葉が話せないだけでいつもの4倍くらい引っ込み思案になり、

会話の2秒後にはいつも堅い愛想笑いを浮かべていた。

もちろん何も理解していないのに。

この時も私はのび太に断ることもできずに、

そのままのび太の車でホテルまで行くことになった。

車内でのび太に話しかけてきても何もわからなくて、

何でもかんでも頷いていた気がする。

今思えばかなりキョドッていたと思う。

 

 

そしてなんだかんだでホテルに着いた。

 

 

 

ここからが最悪の始まり。

 

昨日のマイアミは序章に過ぎなかった。

 

ここから7日間私はこのホテルから一歩も出られなくなる。

 

 

 

前編 -完-

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