第十話「STAY SEXY by ホーランド」
22nd Jul 2020 by KIKI
先週のルックブックの撮影は無事終了。
スタッフさんやモデルの皆には感謝です。
来月頭にはアウトするみたいなので、皆様是非。
撮影の時にAKILLA君からブログが長いと指摘をもらったので、
今回は短く書いてみたいと思います。
助かりますw
先週の撮影で10代や20代前半のモデルの子達を撮って、
帰りの高速の車内、何かノスタルジックな気持ちになり、
数年前あるモデルからもらったこの言葉を思い出した。
「STAY SEXY」
これが今回のキーワード。
なるべく短く書きますw
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カメラマン。
フォトグラファー。
写真家。
三つともカメラで飯を食う職業に変わりは無く、
言葉でカテゴライズされた同じようで全く違うこの三つの肩書きに、
数年前、自分の中に大きな葛藤が生まれ始めた。
ただ”好き”が先行して始めたカメラ。
撮りたいものを撮りたいように撮る。
何でも始めた頃は発見の連続で私がカメラを始めた頃も同様、
カラーフィルム、白黒フィルム、リバーサルフィルム…
色んなフィルムを使い暗室で徐々に浮き上がってくる画に興奮の連続だった。
自分が何者なのか?
とかそんな大それたトピックなど考える事もない。
むしろ肩書なんてファックだった。
それからそんな真っ直ぐな気持ちは変わっていった。
すごくシンプルで今では正解に見えるほどの初心の無心な情熱は、
時間とステージが比例して進むと共に、
責任や金、抑えても湧き上がる名声欲によって冷めていった。
クライアントは何を求めているのか。
皆どんな画が好みだろう。
何を撮ったら皆驚くだろう。
指紋がべたべたのくもったレンズのように、
ピカピカの初心は汚れていき、
撮りたい被写体を見つめてきた自分の目は、
いつの間にか他人の目を見るようになっていった。
ストリート写真も風景写真もポートレートも、
コンテンポラリーな抽象的な画や構図も、
セクシーな女性の写真や、著名人の撮影も、
とにかく何でも撮った。
全て意味があったし学ぶ事も多かったが、
色んな撮影に挑戦しても自分が何者なのかはいつまでもわからないまま。
相手からは次のレベルを求められるから進まないといけない。
そんな空中で背伸びを繰り返す日々はそれから数年続いた。
だが変化のタイミングは不意にやってきた。
それまでいつまでも吹っ切れなかったモヤモヤが一瞬で吹っ切れた瞬間。
ある何でもないいつもの撮影現場。
ブルックリンのハウススタジオでアパレルのカタログ撮影をしていた時の事。
モデルはアメリカで初めてポートレートを撮らせてもらったホーランド。
もう5、6年前に学生時代の友達に紹介された背の高い白人の女の子。
その日も何の問題もなくいつも通り撮影は進み、無事に撮影は終わった。
帰り際ホーランドと世間話をしていたら彼女は唐突に確信をついてきた。
「KIKI最近自分の作品撮ってないでしょ?」
「うん。最近はクライアントの仕事が多くて自分の作品撮れてない。」
「だと思った。初めてポートレート撮った時の方が写真家って感じしたもん。今の方が仕上がりは綺麗だし、いろいろ考えられてると思うけど。」
「実はなんか最近ずっとわかんないんだよね。別に今に不満があるわけじゃないんだけど、なんかモヤモヤしてる。クライアントに合わせてるからかな。」
「私は色んな写真家に撮られてきたけど、別に綺麗に撮るのが写真家じゃないと思うし、上手ければ上手いほどつまんないっていうか。色とかスタイルがあるって言い方変えればセクシーじゃない?男も女も関係ないと思う。アーティストはセクシーじゃないとダメ。あなたはアーティストなんだから。相手になんて合わせなくていいじゃん。自己中で真っ直ぐな方が型にはまったハンサムよりよっぽどセクシーよ。作品には全部出るから。」
この時自分の目線が人の目から被写体に戻った瞬間だった。
フィールドが変わるにつれてカメレオンの様にその色に染まってきたこの数年。
モヤモヤの正体はブレブレの芯だった。
別にどの現場でも自分でいれば良くて染まる必要はなかった。
相手が気にいる作品は染まったら撮れるかもしれないが、
相手の度肝を抜く作品はブレない芯からしか生まれない気がする。
これは自分しか撮れない。
今でも決めのメインカットではこれを常に心がけている。
「KIKI! STAY SEXY!」
ホーランドは最後にそう言い残し、迎えにきた彼氏の高級車に乗り込み帰って行った。
笑えた。
ホーランドの彼は型にどっぷりハマった典型的なハンサムだった。
まあ世の中そんなもんだ。
-完-