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第十七話「ベルリンの拾う神ダニエル」-特別編前編-

9th Sep 2020 by

 

 

こいつは神なのか。

 

拾う神に私はベルリンで出会った。

 

 

 

後編 -完-

 

 

 

「ダニエルマジありがとう。俺明日から働くからちょっと待ってて。」

 

「金はいつでもいいよ。お前が返せる時でいい。でももしまた捕まっても俺に連絡しろよ。」

 

チルしながら3人で会話をしていると背の高い白人男2人が近づいてきた。

 

「いい匂いするじゃん。ちょっと俺らにも吸わせてよ。」

 

 

このなんでもない会話が最悪の事件に発展する。

ベルリンの本当の悪夢はまだ始まったばかりだった。

釈放当日に私はまたどん底に突き落とされる。

 

 

この続きは17話あたりで書きます。

 

 

 

 

 

※今回は7、8話「ベルリンの拾う神ダニエル」の続きです。

 

 

高身長、割と体格の良い白人男2人組。

一言目から明らかなイギリス訛りの英語が耳に付いた。

話を聞けばこの同じユースホステルに滞在しているらしく、

私を含めダニエルもオリバーもほとんど酩酊状態だった為か、

何を疑うわけでもなく突如現れた2人組の白人を迎え入れた。

 

輪を左回りでダニエルが量産する極太のJが次から次へと回る。

 

私は朦朧とする意識の中どうでもいい会話を続けた。

 

 

「君たちどこから来たの?」

 

「俺たちはロンドンから一昨日きたんだ。明日帰るけどね。君は?日本人でしょ?今日から?」

 

「そう日本人。実は俺はもうこのユースホステルには大分長いこと滞在している。色々あって今日もどってきたんだけど。。」

 

「そうなんだ。一回も見たことがないから今日来たのかと思った。」

 

「まあ色々あって。。ははは。。。」

 

 

当たり障りのない社交辞令のようなどうでもいい会話が数分続き、

やがて急に現れた2人組の白人は颯爽と部屋に戻っていった。

 

私とダニエル、そしてオリバーも、もう意識の限界ギリギリだった。

楽しい夜が終わって欲しくなくてフラフラで続けるビリヤード。

最後に3人で腕をクロスさせ、限界を超えた肝臓にイエガーを流し込んだ。

ダニエルは散々散らかったバーのグラスを洗い、

オリバーはもうすでにラウンジで寝ていた。

私はダニエルに挨拶をして、

今にもぶっ倒れそうな身体を引きずるように自分の部屋まで戻った。

このユースホステルにはエレベーターは無く、

HPほぼ0の私にとっては登る階段一段一が重く、とてつもなく長く感じた。

 

3階の角にある自分の部屋まで。

 

もう少し。

 

あと少し。

 

2階まで階段をようやく登りきった時、

そこには妙な空気感が漂っていた。

目線の先に結構な数の少年少女がトイレの前で何か物議を醸し出している。

 

なんかあったのか?

 

高校生?いや中学生くらいだろうか。

見るからにかなり幼い子もいれば、身体はもう大人。

だけどどこか垢抜けない青春ど真ん中の少年少女達が目に映った。

意識が朦朧とする中そんな様子を黙って階段から見ていると、

群衆の中にいた一人の少女が私に歩み寄って来た。

 

 

「あなたが犯人でしょ?!」

 

は?意味不明だった。

 

「は?何の?何言ってんだ?」

 

「こっち来て見なさいよ!」

 

 

少女に強引に手をひかれトイレの前まで連れて行かれた。

そこには昭和のコントみたいな光景があった。

さっきの二人組の白人が便器に向かって嘔吐している。

隣同士の便所の扉は全開で、

見えるのは便器に向かう二人のケツだけが同じ角度で並んでいる様。

 

「あの子達に変なものやらせたでしょ?!ロングヘアーのアジア人にやらされたって言ってたわよ!あなた以外アジア人いないじゃない。違うの?」

 

メガネをかけたポニーテールの少女が腰に手を当ていきり立っていた。

あいつらは確実にさっきの二人組だが、

まず状況が理解できなかった。

この少女らとあいつらは知り合いなのか?

とりあえずシラを切ることにした。

 

「知らねーよ。誰だこいつら。意味わかんねーこと言ってんじゃねーよ。」

 

「本当に?あの子達がそう言ってたわよ。私のクラスメイトなの。先生が戻ってきたらこのこと報告するから。」

 

「は?クラスメイト?先生?つーかお前らいくつだよ?」

 

「15歳。修学旅行でロンドンから来ているの。今先生達外出しているけどもう少しで帰ってくるから報告するから!」

 

15歳?中学生?

 

あいつらが?老けすぎだろ。

 

だけどこれは結構ヤバイことになるかも…

その瞬間一気に込み上げてきたマジでヤバイ感。

さっきまでの目蓋を閉じていた心地よい離脱感の前でクラップ音が鳴る。

そして脱皮したシラフは慌てて皮を脱ぎ捨て現実の前で正座した。

 

嘘みたいに軽くなった身体で一階のバーに戻り、

ダニエルの元へ向かった。

 

「ダニエル、マジヤバイかも。さっき途中で話しかけてきた奴ら中学生だった。しかも今あいつら2階のトイレでゲボ吐いてて、クラスメイト集合しちゃってる。担任が戻ってきたら面倒なことになるかも。あいつらロングヘアーのアジア人が犯人だみたいなこと言ってるらしいし。」

 

「マジかよ。とりあえずお前一回酔覚ましがてら1−2時間散歩してこい。どうなるか様子見たほうがいいだろ。」

 

すぐにユースホステルを出て、

近くの住宅地を彷徨う様にグルグルと周った。

たまに深呼吸をしてみたり、急にベンチに座ってみたり、

それでも心臓の鼓動はどんどん早くなっていった。

極寒のベルリンの夜になぜかデリでキンキンの水を買い、

ブルブル震えながら公園のベンチに座った。

 

なんで嫌なことだけはこうもうまく続くのか。

ついさっき留置所から釈放されたばかりなのに。

もうこれは呪われてるレベルだ。

一体何を学ばせたいのか。

 

追い詰められる時はいつも気持ちが拡大的になり、

振り返れば大袈裟に見えることでも、

その瞬間はむしろもっと大きく見えるものだった。

そしていつも最終的に開き直る。

ここにどれだけ居ても結果は変わるものじゃない。

 

腹を括りユースホステルに戻ることにした。

アーチのかかったレンガ造りの入口の石畳の地面に、

街灯がスポットライトの様にやかましく当たる。

その先を右に曲がればユースホステルだ。

 

懸命に恐怖心を抑えて右へ曲がった。

 

 

 

まわる赤灯が私の顔を舐めるように照らす。

 

 

パトカー3台、警官6人。野次馬30人くらい。

 

 

ユースホステルの前は大事件になっていた。

 

 

The End.

 

Back to prisonだ。

 

 

 

-前編- 完

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THE WORLDWIDE LAFAYETTECREW #12

9th Sep 2020 by

ストリートを飛び出し世界へ広がるLafayette独自のコネクションをご紹介していく

『THE WORLDWIDE LAFAYETTE CREW』

DA$H

初見ではない方も多くいるはずのDA$H

そう、彼はLafayette 2018シーズンのLOOKBOOKを務めてくれていた

DA$Hといえば、以前ブログでも触れたことがあったがあの有名なA$AP MOBの一員で

故A$AP YAMSと共に盟友としてA$AP MOB設立に携わったメンバーでもある

厳密に言うとA$AP MOBのメインメンバーではなくアフリエイトとして活動しており

ただ、A$APという冠が付かずともDA$HがA$AP MOBと非常に近い存在であり

そしてイーストコーストのラップシーンにおいて欠かせない立役者の一人であることは

誰もが知るストリート事情

また、DA$HはJAY-Zと共にロカフェラレコーズを立ち上げたデイモン・ダッシュの甥でもある。

DA$Hとの出会いは2018年、個人的には前からその存在と音源を良く知っていただけにニューヨークで意気投合

さすがとも言える人脈の広さとファンの多さに最初は非常に驚いた

PRIVILEGE NYCでPOP UP SHOPを開催した時も大勢の関係者とファンが押し寄せていた

決して今の今、メインストリームでトップランカーとして名を馳せているわけではないにしろ

ストリートからの揺るがぬ支持は絶大なもの

そして、モデル後も初来日した際にはPRIVILEGE TOKYOにてPOP UP SHOPも開催し大盛況の内に幕を閉じた

DA$Hといえばこの曲が一世を風靡

そして毎年A$AP YAMSを偲んで開催される追悼イベントYAMS DAYでもLafayetteを着用してくれていた

もちろん、今も変わらず精力的に音源製作を続けファンの期待にこたえ続けている

A-KILLA

 

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HAIGHT “SMOKERS CLUB MIX” Mixed by TONZILLA from YARZ

9th Sep 2020 by

HAIGHT

“SMOKERS CLUB MIX”

Mixed by TONZILLA from YARZ
@yarz_tonzilla

 

仙台を拠点に活動するサウンド”YARZ(ヤーズ)”の

SELECTORである TONZILLA が

HAIGHTのためにMIXしたスモーキーでドチルな1枚。

このMIX CDが現在Haightディーラー、

Lafayette、PRIVILEGE各店にて

ご購入者特典として配布中(9/9現在)、

なくなり次第終了となりますのでお早めに。

 

 

 

こちらですが、

haightブランドのオフィシャルサイト

haight.jp

のホームページリニューアルにあわせた

記念品でもあります。

 

 

そして

ホームページはシンプルにカッコよき仕上がり

 

 

特におすすめなコンテンツが

このFEATUREで、

今シーズンのコラボレーションアーティストや

ブランドをメインに

HAIGHTらしい角度から

今後もポストされていくようです。

 

 

是非チェックを

https://haight.jp/

https://www.instagram.com/haight_brand/

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PRIVILEGE NEWYORK/ CRTL ALT DELATE

8th Sep 2020 by

先月、15日にPRIVILEGE NEWYORK内にオープンした

ハイエンドストリートや、NYの新鋭デザイナーブランドを扱う、

CRTL ALT DELATE。

今のところ、絶好調。

オープン当時は、クローズの19時まで、ずっと並びが
出ていた。

PRIVILEGE NEWYORKと、CTRL ALT DELATEのカスタマーがマッチするか

不安材料だったが、NYはカスタマーが日本の様にカテゴライズがなく、

非常に良い、相乗効果が今のところ出ている。

日本では、お店やるにしても、ブランドやるにして、どうしても

何々系という、カテゴライズに重点を置いていて、そのカテゴライズに

逸れると、どうしても反発起きる。

自分もこの業界にいて、20年近くいるので、そのカテゴライズが

いい面もあり、悪い面でもあることに、ここ数年感じていた。

日本のアパレル業界、シーン、もっと自由になるべきだし、

それを受け入れられると、言える人が増えることを臨みたい。

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LFYT 2020 A/W Deli.4

3rd Sep 2020 by

今週末、9/5[sat]に発売となる

LFYT 2020 Autumn/Winter Collection 4th Deliveryの情報がOFFICAL SITEに公開されました。

***

LA201002
SPORT NYLON TRACK JACKET
PRICE:18,000yen+tax
COLOR : BLACK(ブラック),NATURAL(ナチュラル)

LA201201
SPORT NYLON TRACK PANT
PRICE:15,000yen+tax
COLOR : BLACK(ブラック),NATURAL(ナチュラル)

LA200201
BIG SILHOUETTE STRIPED OXFORD SHIRT
PRICE:12,000yen+tax
COLOR : BLACK(ブラック),BLUE(ブルー)

LA200101
ARCH LOGO DROP SHOULDER LS TEE
PRICE:8,500yen+tax
COLOR : WHITE(ホワイト),BLACK(ブラック),PURPLE(パープル),ORANGE(オレンジ),SAFETY GREEN(セーフティーグリーン)

LA200102
SOLID POCKET LS TEE
PRICE:7,000yen+tax
COLOR : WHITE(ホワイト),BLACK(ブラック),CHARCOAL(チャコール),OLIVE(オリーブ),BURGUNDY(バーガンディー)

LA200111
SOFT BAKED LS TEE
PRICE:6,500yen+tax
COLOR : WHITE(ホワイト),BLACK(ブラック),BEIGE(ベージュ)

LA200112
LFYT x Takayuki Yamada – FRUIT TEE
PRICE:5,500yen+tax
COLOR : WHITE(ホワイト),BLACK(ブラック),YELLOW(イエロー)

LA201501
LFYT x Takayuki Yamada – FRUIT TOTE BAG
PRICE:6,000yen+tax
COLOR : NATURAL(ナチュラル),BLACK(ブラック)

***

LFYT 2020 Autumn/Winter Collection preview

LFYT AUTUMN / WINTER 2020 COLLECTION MOVIE

 

Lafayette / PRIVILEGEの実店舗 11:00より販売開始
※地域によって一部店舗の営業時間が変更しております。
Lafayette Online Store 12:00より販売開始

 

詳細はLafayette OFFICAL SITEをご覧ください。

 

Lafayette Yokohama
神奈川県横浜市西区南幸2-9-9 アネックス横浜110
tel:045-312-9577
MAP

Lafayette Fujisawa
神奈川県藤沢市鵠沼花沢町1-1 藤沢駅前ハイム2F
tel:0466-50-4205
MAP

PRIVILEGE TOKYO
東京都渋谷区神宮前4-25-1 ライサ1F
tel:03-6804-6471
MAP

CLICK / STAR WARKS / PRIVILEGE NIIGATA
新潟県新潟市中央区春日町2-26
tel:025-247-8981
MAP

PRIVILEGE SENDAI
宮城県仙台市青葉区中央2-6-19 2F
tel:022-217-3407
MAP

PRIVILEGE NAGOYA
愛知県名古屋市中区大須3-44-51 EAST 1F
tel:052-252-7678
MAP

PRIVILEGE TAKASAKI
群馬県高崎市砂賀町97 五十嵐ビル 2F
tel:027-325-3315
MAP

PRIVILEGE NEW YORK
153 Essex St, New York, NY 10002
MAP

 

ONLINE STORE
LFYT.JP
www.lafayettecrew.jp

PRIVILEGE OFFICIAL SITE
www.privilege.co.jp

 

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第十六話「スイスの商人マシュー」-後編-

2nd Sep 2020 by

 

 

 

ニューヨークに住んでいた頃から

暗室で少しづつ現像してきたフィルム写真達に初めて値段をつけた。

 

一枚10ユーロ。

 

当時の日本円にすると約1300円。

それが安いのか高いのかはわからないが、

自分の写真に値段をつけるのは何か違和感があった。

商売で言えば原価があり、

原価3割以下に抑えるというのは基本だと聞いたこともあった。

ただ私の写真には原価がない。

厳密に言えば、使用した機材や暗室での材料や紙代などはあるにしても、

価格への納得感は買手の価値観が決めるもので、

世の中には一枚数百万円、数千万円で売られる写真もあれば、

1円の価値もつかないものもある。

たかが写真に数百万?馬鹿じゃねーの。

という人もいるだろう。

逆にこの写真に対して1万円?

アーティストを馬鹿にしてんのか?

という人もいると思う。

そこに均一の価値観は存在せず、

買い手の価値観のみが購入につながる。

それ故に私は最初、値段を相手に付けてもらおうと思った。

だがマシューは試しに10ユーロで売ってみろと言う。

写真どころか何も売ったことのなかった私は、

この時初めて”物を売る”というトリックを目の当たりにすることになる。

 

マシューは自分の絵を置いていたブースの半分を使い、

私の写真ファイルから数枚ピックアップして、机の上に並べた。

そこには価格の書かれたものは何もない。

手刷りの白黒写真数枚が机の上に置かれただけ。

 

え?昨日まで自分がやってきたことと何も変わらないじゃん。

これが私の率直な気持ちだった。

 

「マシュー、これでホントに売れんの?同じようなこと昨日までやってたんだけど、全く売れなかったし、誰一人足も止めなかったけど。。」

 

「まあ焦るな。見ててみろ。とりあえず次来た客に俺がお前の写真を売ってやる。」

 

「ちなみにマシューは一日何枚自分の絵何枚売れるの?」

 

「大体10枚から多い日で20枚だな。」

 

「マジ?結構売れるもんなんだね。どんな人が買うの?」

 

「それはいろいろだな。言い換えればどんなやつかはあまり関係無い。いいか?さっきも言ったがここは路上だ。ギャラリーじゃないんだ。それがどういうことかわかるか?」

 

「んーー、正直わかんない。俺は物を売ったことがないんだ。」

 

「じゃあ俺が教えてやる。ギャラリーに来る奴ってどんな奴だ?きっと最初からアートに興味があったり、アートが好きな奴が来るところだろ?それはグロッサリーストアに牛乳を買いに行くのと同じだ。元々それが欲しいやつにそれを売るっていうのはそんなに難しいことじゃない。でもここでアートを買っていくやつはどうだ?たまたまここを歩いてた。って奴がほとんどだ。そんな奴らに売るってなると話は別だ。それが必要だと思ってなかったやつに、それを売るんだからな。じゃあどうしたらそんな奴らに売れると思う?」

 

マシューは最終的な答えを必ず私に言わせる癖があった。

まるで学校の先生のように。

 

「んーー、難しいな。。全然わからないwなんだろ?ここ数日、同じように机に写真を並べて客を待ってみたけど、誰一人にも見てももらえなかった。だから…まず見てもらって色々写真の背景を説明するとか?それでディスカウントにはなるべく応じる、みたいな?」

 

「それじゃ売れないなwそれもギャラリー方式と同じだ。撮影の背景の話をされても聞き入ってくれる人なんて路上では一握りだ。そんなこと興味ないからな。ここでアートを売るには、相手に偶然の必然性を感じさせることが重要なんだ。意味わかるか?」

 

「いや、全くわからないw」

 

「まずお前の言う、見てもらわないといけないって言うのは正解だ。話が始まらないからな。だからまず話しかけることが重要だ。ボードや看板を使うより何倍も効果がある。相手は人だからな。それから作品を見せるだろ?ここからが重要だ。たまたまここを歩いていて、たまたま話しかけてきたじーさん、そしてたまたま出会ったそこそこ気に入った作品に出会った。このストーリーになったらこっちのもんだ。どんな気持ちで撮ったとかっていうのはお前の気持ちであって、相手の気持ちじゃない。路上では相手の気持ちの方が”売る”ということに関しては重要なんだ。人っていうのは面白いもので、普段は目に止めないものでも、たまたま、つまり”偶然”が重なると必然を感じてそれが欲しくて仕方がなくなるものなんだ。それが路上の一番の強みだ。意味わかるか?」

 

「うん、何となくわかる気がする。でもそんなうまくいくのw?」

 

「まあ見ていろ。次来た客で試してやるから。」

 

それから数分もしないうちに30代ぐらいの女性二人組が公園に向かってきた。

もちろん彼女達の目的は公園にいくことで、マシューの店に来たわけではない。

マシューは遠くからフランス語で陽気に話かける。

何を言っていたのかはわからないが、

彼女達はケラケラ笑いながら足を止め、

ゆっくりこっちに向かってきた。

もうすでにこれだけでも関心してしまった。

 

それからマシューは私の写真を手に取り、

私を指差して何かベラベラとずっと話している。

初めはケラケラ笑っていた彼女達が私の写真を手に取り頷き始めた。

一体マシューは何て説明しているんだ。

気になって仕方がなかったが、

とりあえずそこでは何も言わず、

この場はマシューの手腕を拝見することにした。

彼女達が何枚か写真を見た後、

マシューは他の写真も入ったファイルも彼女達に渡した。

彼女達は2人で何か話しながら、じっくり私の写真を見続けた。

自分の為というか自分の撮りたいようにただ撮ってきた写真を、

こんなにマジマジと見られるは初めてで、

まるで自分の心の中を目の前で見られているようで、

何かすごく緊張したのを覚えている。

彼女達はそれからファイル全ての写真を見た後、

数枚の写真に指を刺し、マシューに金を払い、私に握手を求めてきた。

 

マジ?

やべえ。本当に売れた。

でも何でだ。

 

マシューはもらった金を私に全て渡して、こう言った。

 

「言っただろw。ほら7枚分の70ユーロだ。」

 

「いやマジですごいよ。なんて説明したの?」

 

「さっき言った偶然の連続を作っただけだ。たまたま歩いていて、たまたま声をかけられた露店で、たまたま旅の途中の日本人写真家の手刷りの写真に出会った。この目の前で起きているストーリーを私は彼女達に言葉で気がつかせただけだ。何も嘘はついていないし、無理やり勧めたわけじゃない。彼女達の意思で買っていったんだ。それにしてもお前の写真は売りやすいよ。旅の写真、しかもニューヨークのものが多い。人は偶然出会った憧れには弱いものだ。あと俺はじーさんだ。相手の警戒心はお前ら若い奴より始まりから薄いんだよ。」

 

「いやマシュー、あんたマジですごいよ。俺はマシューに売るのを託したい。売り上げの半分マシューにあげるから売ってくれないか?俺はその間に暗室を探して写真をするから。どうだろ?」

 

「もちろんいいぞ!さっきも言ったが、お前の写真は俺なら簡単に売れるからな。報酬は最後にまとめてくれ。」

 

その日結局マシューは同じような方法で計60枚近くの写真を売った。

約600ユーロ。日本円で約7万円弱。

本当にすごい商人だと思った。

初めて自分の写真ついた価格。

嬉しさが第一に来て、

その後何とも言えない喪失感みたいなものがあったのも確かだった。

初めての感覚に色々な気持ちと感情が交差していた。

 

翌日、また同じ場所でマシューと早朝に待ち合わせた。

マシューに写真のファイルを預けて、

私は写真屋を渡り歩き暗室を貸してくれる場所を探した。

約今から8年前くらいのその頃でも、

引き伸ばしきや暗室を所有している場所は少なく、

探すのに多少苦労したが、結局何軒目かで尋ねた写真屋の亭主の紹介で、

暗室を所有している人を紹介してもらうことができた。

それから私は売れた写真を補充する為に、

一日中暗室にこもり写真を刷り続けた。

日が暮れるまでひたすらに刷り続けて、

マシューのところに戻ると、マシューはニヤニヤ私を見続けた。

 

「何だよw昨日売れた分刷れるだけ刷ってきたから補充するね。それで今日は何枚売れた?」

 

マシューは私に800ユーロ渡してきた。

こいつ半端じゃねぇ。

 

「今日はすごいぞ。80枚だ。1人の奴が30枚近く買っていったんだ。やっぱ手刷りも売れる効果の一つだな。この調子でガンガン売るぞ!俺の絵売ってるよりよっぽど儲かるぞw」

 

「あんた天才だよ。同じもの売ってるのに俺なんて一枚も売れなかった。マジですごいよ。マシューありがとう。」

 

「おいおいまだまだ売れるぞ。明日からもガンガン売るぞ。」

 

たった2日で、1400ユーロ(約16万円)。

この勢いで行けば、月間で20000ユーロ(約260万円)は堅い。

信じられなかった。

自分の写真がうまく行けば月間260万円稼げるのか。

嘘みたいな現実に嬉しさが止まらず、

その晩マシューを飲みに誘った。

マシューの案内でロザン市内のバーに一緒に行き、祝杯をあげた。

 

「マシューは本当にすごい商人だよ。それしか言えないけど、本当あんたはすごい。」

 

「まあ初めだからきっとこんなもんだ。この辺りで手刷りの写真を売る写真家はいないからな。物珍しさもあるし、日本人の旅人で、ニューヨークの写真ってのがいいな。KIKI。これは商売全てに言えることだけど、紐解けば物が売れる理由は絶対にあるんだよ。売る場所、売る物、売る相手。全て把握した上で売り方を見つければ売ることは俺にとっては難しくない。物が売れない奴っていうのは、単純に売れる理由がないんだよ。言い換えれば売れない理由があるんだよ。理由よりも自分の頭で考えた作戦に賭けてみる。みたいなやつばっかりだろ。お前もそうだったようにw 」

 

「間違いないよ。マシューは何年くらい路上で物売りをやってるの?」

 

「もう20年くらいだな。その前はタクシドライバーをやっていたんだ。もちろん絵を描きながらな。ドライバーをやっているといろんな客とたくさん話をするだろ?その時に相手を見るってことを覚えたんだ。俺が今までやってきたのはあくまで個人とのディールだ。今ではインターネットとかの方が主流だろ?だからその方法は俺にはわからないが、そこにも”売れる理由”が絶対あるはずだ。それはどの時代も変わらないことだよ。」

 

「マシューの話は本当勉強になるよ。今までこんなこと教えてくれた人はいないよ。」

 

「KIKIはこの生活で食っていけるなら、これを続けたいと思うか?」

 

「正直こんなに稼げると思っていなかったから、驚いてるし、やっていけるんじゃないかって思っちゃってるのも正直なところだよ。でもやり続けたいかって聞かれたら、答えはノーかな。俺は世界中のギャラリーで個展を開いて、そこで売りたい。今は無理かもだけど。」

 

「そうか!やっぱお前いいな。俺は好きだぞ。じゃあ俺とお前で今のスタイルで売るのは1週間でやめだ。ある程度金が貯まったら次の国に行くなり、次のステップに行かなきゃダメだな。」

 

「え??何で!?」

 

「多分このまま俺とお前で売り続けたらある程度の期間は金は稼げるが、きっとお前は今お前が言っていた、自分がいきたい道には行かなくなるからな。お前さっき今は無理だって言ってたな?確かに今は無理かもしれないけど、今をそこに向かう途中にすることはできるだろ。今まで俺を含めて何人ものアーティストが途中で道を曲がったのを見てきたんだ。それがなぜか今はわかる。ゴールが明確じゃなかったからなんだ。それは進んでいるんじゃなくて彷徨っているだけなんだよ。続けてたらいい話とかは何度かくるもんだ。そして適当な理由を並べて皆そっちに曲がっていくんだよ。でもお前は今はっきり自分の行きたい場所を躊躇せず言っただろ?明確なゴールがあるなら何年かかっても進むべきだ。だからここにいるべきじゃない。今やってるのはアートじゃなくて、商いなんだよ。残念だが今お前の写真が今売れてるのはお前の写真に価値がついてるんじゃない。商いの法則によって売れてるだけ。この生活続けてたらその内お前のゴールが見えなくなっちゃうぞ。」

 

マシューの言葉の意味が理解出来た気がした。

そしてマシューはポケットから10ユーロ札を出し、

マジックで何かを書きそれをタバコの箱に入れて私に渡した。

 

「これでお前がこの街を出る時に、飯でも食え。それまで開けるなよ!」

 

それから5日間、マシューと私は同じ場所同じ方法で写真を売り続けた。

結果は1週間で約320枚売れて、

総売り上げは3200ユーロ(約41万円)。

今までじゃ考えられなかった数字だった。

そして約束の最終日の夜、

マシューに半額の1600ユーロを渡した。

 

「マシューありがとう。この金で明日ミラノに向かうことにした。そこからどこに行くかはまだ決めてないけど。」

 

「じゃあこの金でお前の写真160枚売ってくれ。いいか?」

 

「いいけど…マシューはそれでいいの?」

 

「俺はお前のファンだからな。いつかお前が有名になったら全部売るけどなw 絶対ロザンでも個展やってくれよ。適当なとこで曲がるなよ。」

 

私はマシューとそこで別れ、翌日の朝ミラノに向かった。

空港まで向かう特急電車の車内。

約1ヶ月半住んだロザンの街並みに少し寂しさが湧いてきた。

この街に来た時に持っていた写真の束は今ユーロの束に代わった。

マシューが教えてくれた、

好きなことで金を稼ぎ生活してくことと、

好きなことで行きたい場所まで行くことの違い。

 

それは明確なゴールがあることだ。

 

昨日も今日も明日もまだ途中。

今でもバーでのマシューとの会話は鮮明に覚えている。

 

空港に着きバーの最後にマシューからもらったタバコの箱を開けた。

そこには10ユーロ札に殴り書きの英語でこう書いてあった。

 

If people don’t laugh at your dream,

You are not dreaming big enough

 

人々があなたの夢を笑わないのなら、

あなたはまだまだ大きな夢を描けてはいない。

 

 

死ぬまでに絶対にマシューの街で個展をやる。

 

世界中のギャラリーで個展をやる。

 

それまで生きていてくれ。

 

 

後編 -完-

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電子マネー決済導入

1st Sep 2020 by

電子マネー決済もキャッシュレス決済のひとつとしてかなり身近なものになりました。

ラファイエットでもpaypayに続き、メルペイauペイとスマホ決済を導入してきましたが、この度、いよいよ待ちに待った電子マネー決済を導入いたしました。

 

 

「Suica」などの交通系電子マネー、「iD」「QUICPay+(クイックペイプラス)™」
 
 

Suicaでラファイエットのアイテムを買える日が来るとは…

10年前は夢にも思っていませんでした笑

 

Lafayette Yokohama

Lafayette Fujisawa

PRIVILEGE TOKYO

CLICK / STAR WARKS / PRIVILEGE NIIGATA

PRIVILEGE TAKASAKI

 

の実店舗にてSquareの電子マネー決済をご利用いただけます。

 
 

そして実は、ラファイエットオンラインストアでも「お届け時電子マネー払い」というサービスがあり、電子マネーで決済ができます。

nanaco (ナナコ)、楽天Edy (ラクテンエディ)に関して上限5万円まで。
WAON (ワオン)、Kitaca (キタカ)、Suica (スイカ)、PASMO (パスモ)、TOICA (トイカ)、manaca (マナカ)、ICOCA (イコカ)、SUGOCA (スゴカ)、nimoca (ニモカ)、はやかけんに関して上限2万円まで。

詳しくはご利用ガイドをご覧ください。
 
 

しかし便利な世の中になりました。

 
 

BEN

Keep It Real.

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