第三話「フランスからの刺客、マイクとサマンサ」-前編-

3rd Jun 2020 by

 

 

一昨日CEOと電話をしていた時の事。

 

会話の途中で急に壺にハマり、

お互い息が出来なくなるぐらい笑いが止まらなくなった。

年に数回あるか無いかの爆笑だった。

 

ジョニーさん爆笑をありがとう。

 

言葉でも何かの瞬間でも、

一つのきっかけで誰かを思い出す事は多々あって、

一昨日の電話を切った後も、

爆笑の余韻に2人のフランス人を思い出した。

 

マイクとサマンサ。

この二人の名前を思い出すだけで今でも笑えてくる。

 

今回は学生時代にニューヨークで出会った、

2人のフランス人カップルについて書いてみたいと思います。

 

この話も長いので前後半で書きます。

 

 

ブルックリンのフラットブッシュ。

カリビアン達が朝から騒がしく無駄にでかい声を上げている。

いつもと何も変わらない朝だった。

 

その朝は爆音のベルに叩き起こされ始まった。

住んでいたアパートのベルはぶっ壊れていたのか、

火災報知器のように以上にうるさい。

丁度ブルックリンに来て1年くらい。

観光地も行きたかった場所も大体行き尽くして、

学校の友達が韓国人からヨーロッパ系に変わっていく頃。

イラついていたこのベル音も生活の一部になりつつあった。

 

玄関を開けに行くと、大家のアキさんが立っていた。

 

「おはようー朝からごめんねー。今日私の友達カップルがフランスから来るんだけど、3日間だけこの部屋に入れてくれない?リビング空いてるよね?」

 

「あー空いてますよ。先週DJのあの子出て行ったのでw あいつマジヤバかったんですよ。」

 

「聞いたーごめんねーw あの子かなりビッチだからさー。」

 

この家にはリビングに簡易的なカーテンをつけて、

無理やり部屋にした様な部屋があった。

自分も最初はそのリビングから住み始め、

部屋を所有するルームメイトが出ていくタイミングで、

ドア付きの部屋に徐々に昇格していった。

 

光熱費込みで月500ドル。

カーテンリビングは登竜門的な部屋だった。

 

その部屋に先週まで日本人の女の子DJが住んでいた。

毎晩の様に男を連れ込んでセックス三昧。

夜中になると半端ない喘ぎ声と、

マットレスのスプリングが跳ねる音が響く。

 

こいつ相当気合入ってるな。と思っていた。

 

あまりの頻度の高さに、

私含め普段いないことも多いルームメイト達も、

彼女のDJタイムには毎晩頭を抱えていた。

ルームシェアは同じ日本人でも揉める事は日常茶飯事で、

目的もジェネレーションも別々の人が一緒に生活するのは、

想像していたよりタフだった。

 

「じゃあもうちょっとでJFKに着くみたいだから、掃除しちゃうね。」

 

「了解です、自分も学校行かなきゃいけないんで帰ってきたら挨拶しますね。」

 

「オッケー、良い子達だから大丈夫だと思うからさーw」

 

 

っていうかカップルか…

良い子とかそんな事より、

その言葉が既に凶器だった。

あの女DJのトラウマが威勢よく走って来る。

目蓋がゆっくり閉じていきそうだった。

 

しかもフランス人。

 

色んな意味で想像は暴走していた。

 

部屋に戻り、支度を済ませ駅に向かった。

学校はマンハッタンの34丁目にあり、

9時から14時まで授業を受けて、

放課後は学校の友達とセントラルパークでチルするのが日課だった。

その日も真っ赤な目で帰宅すると、キッチンからアキさん声が聞こえた。

 

「あっおかえりー。この子達が朝言ってた友達のサマンサとマイク。」

 

目の前にはバンテリンのパッケージみたいなムキムキ男と、

笑顔爆発の180センチオーバーの女が立っていた。

 

終わった。

きっとリビングの床が抜ける。

 

フランス人と聞いて勝手に白人だと思っていたが、

彼らはブラックで、とにかくデカかった。

 

「よろしく。俺はKIKI。」

 

「よろしく。」

 

マイクはかなりクールな男だった。

言葉数は少なく、いい顔つきをしていた。

サマンサは見た目通りの気さくな子で、

フランスなまりの英語が印象的だ。

二人の社交性は対照的だった。

ムキムキのマイクは常に無付けているようにも見える。

それか単純にカーテンリビングにくらっていたのか。

そうだったとしても納得できる。

あの部屋は間違いなくカップルで泊まる部屋としては最悪だったから。

 

軽く挨拶程度に会話をして、すぐに部屋に戻った。

 

自分の中での決戦第一夜が始まった。

三日間だけだ。三夜凌ば平穏が戻ってくる。

それにマイクは見る限り秩序がありそうな風貌だった。

見た目はムキムキのボディービルダーみたいな身体で、

もろ体育会系だったが、同時に知的な印象もあった。

そもそも冷静に考えてみれば、

カーテンリビングで事を始めれば、

どうなるかぐらい想像しようと思えばできる事だ。

マイクならわかるはずだ。

そう言い聞かせ電気を消した。

 

.

.

.

 

携帯のアラームで目が覚めた。

一度も起きる事なく朝になっていた。

やっぱりマイクはわかってたか。

あのDJがイカれていただけで、あいつは常識人だ。

勘ぐりまくりの取り越し苦労がバカバカしくなり、

いつも通り支度を済ませて学校に向った。

 

その日の放課後、

学校で仲の良かったテル君が遊びに来ることになった。

彼は京都大学から3ヶ月だけ留学に来ていた、

完全なエリートだった。

接点も無く、バックグラウンドも全く違ったが、

彼とは何故か仲良くなり、たまに放課後はうちに来ていた。

テルくんはブルックリンが好きで、うちに来る度テンションが高い。

陽気な彼を連れて電車に乗り、フラットブッシュに向かった。

 

玄関を開けると、廊下の向こうにマイクとサマンサが見えた。

 

「元気?まだ外行ってなかったんだ?友達連れてきたんだけど入れて大丈夫?」

 

「問題ないよ。俺たちも今から出かけるところだから。」

 

マイクは今日もクールだった。

テル君にもマイクとサマンサを紹介した。

ここでもマイクは余計な挨拶以外の話はしなかった。。

軽い挨拶をして、カーテンの奥に引っ込んでいった。

 

テル君は部屋に入るなりマイクの筋肉のヤバさについて語る。

彼は筋トレが趣味だったから、マイクのヤバさを私の数倍感じていたらしい。

夜飯を作り、帰るのが面倒になったテル君はそのまま泊まることになった。

彼はハーレムに住んでいて、うちに来るとこうなるパターンが多い。

あのDJが出て行ったタイミングで一つルールが設立され、

誰か泊まる時は事前に了承を得るというのが、このアパートのルールになっていた。

 

他のルームメイトには皆にテキストを送り許可を取る。

当時一緒にシェアしていた人は、

あまり家にいない人が多くて、

案の定、彼らから今日は帰ってこないと返信がきた。

残るマイクとサマンサにも一応説明しておこうと思い、

リビングに向かいカーテン越しに問いかけた。

 

「マイク?いる?」

 

応答はなく、人がいる気配もない。

そりゃあそうだ。

三日間しかないニューヨーク旅行。

真面目に帰ってきている方がおかしな話だ。

多分テル君が彼らと鉢合わせることもないし、

あいつらも三日間だけの客で、同じようなものだ。

部屋に戻るとテル君はいつもの定位置の床で既に寝ていた。

 

マイク達が来て二回目の夜。

第二夜はもう戦う事すら頭になかった。

あの女DJのトラウマにマイクへの信頼感は圧勝していて、

昨日の勘ぐりは遠くの方で大人しくこっちを見ていた。

 

電気を消し、窓際で一服して寝た。

 

.

.

.

 

翌朝、ものすごい勢いでテル君に起こされた。

テル君は明らかにテンパっている。

 

「マジやばいって!どうしよう?!」

 

「は?!何が!?」

 

「大蛇がいる。」

 

「は?大蛇!?どこに?!」

 

こいつ頭良すぎておかしくなったか?

まるで意味不明だった。

 

「シャワー入ろうと思ったらバスタブの中に大蛇がいたんだって!すぐにカーテン閉めたからわかんないけど、40センチぐらいはあったと思う。」

 

「何言ってんの?バスタブに蛇がいるわけないじゃん。テル君なんか変なのやったっしょ?」

 

「やってないって!いやマジなんだって!見にきてよ!」

 

テル君から相当な焦りが伝わった。

以上に焦っていて信憑性すら出てきていた。

マジでバスタブに大蛇がいるのか。

いくらフラットブッシュでもあり得ない話だと思った。

 

テル君に連れられバスルームに向かい、

半信半疑で勢い良く思いっきりカーテンを開けた。

 

 

「OH MY GOODNESS」

 

 

私は一瞬で言葉を失った。

 

 

 

ー前編ー 完

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