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第五話「Made In Cambodia. 地雷孤児ヤーイー」-前編-

17th Jun 2020 by

 

 

 

 

「お父さん地雷踏んで死んじゃった。」

 

 

 

 

タイ、バンコクのフアランポーン駅。

ホームの反対側。

オレンジの衣装を纏った僧侶達が並んで髪を剃っている。

 

さようならタイランド。

 

タイにに来たのは約1ヶ月前。

厳密に言えばその間にインドネシアに5日間だけいたが、

タイにいたほとんどの時間をバンコクでは無くパタヤで過ごした。

パタヤはバンコクから約2時間ほどで着く観光地で、

行ったことがある人は頷いてくれると思うが、

バックパッカーにとっては楽園そのものだった。

 

欲しものは何でもあった。

 

クレイジーな街の空気にハマり、

着いてから2日目でウィークーリーアパートを借りた。

高層レジデンスの13階、

キングサイズベッドにバルコニー付きのいい感じの部屋。

1日1200円。

ベルリンで1ヶ月泊まっていたユースホステルは、

二段ベッドが敷き詰められた6人部屋で、

1日2000円。

 

ここに住みたい。ぐらいの好条件だった。

 

それから毎日パーティー三昧の物価も破格の楽園で、

狂った様な王様ライフは始まった。

ビーサンの王様は毎晩のように街で朝を迎えて、

夕方に起き、夜にはまた街に遊びに行った。

どこに行っても引っ張りだこの日本人。

自国での自分に対しての扱いとの違いに日々勘違いを重ねていき、

王様の末路はあっという間にやってきた。

 

四六時中ハイの、めちゃくちゃな昼夜逆転生活。

現地での扱いの良さにも虚栄心が芽生え、

やがて悪夢にうなされる毎日が始まった。

快楽だけを求めて寝起きを繰り返した結果、

不眠症になり勘ぐりがループした。

精神的にもコントロールが効かなかった。

正体不明の敗北感みたいなものに襲われるようになり、

毎晩の様に自己暗鬼が平常心をレイプする。

俗に言うバッドってやつだった。

寝ようと目を閉じると頭の中に投影される、

当たり前の様に見ていた路上の光景。

地べたに座る赤ん坊を片手に物乞いをする母親の目線がモナリザの様に外れない。

もう見慣れてしまっていた本来向き合うべき光景が根から腐った虚栄心を刺した。

 

頭パンク寸前。

一回ここを離れようと決めた。

 

それから急遽決めたカンボジア行き。

陸路で行ける場所なら正直どこでもよかった。

とにかくパタヤから出ないとダメになる。

すぐにアパートを解約し、

バンコクに戻り最安のカンボジアまでの行き方を探した。

陸路でいけば1000円ぐらいでカンボジアまで行ける。

駅の切符売り場で電車の三等車切符を買い、

カンボジアとの国境の街アランヤプラテートに向かった。

 

アランヤプラテートは路線の最終駅の一つ前。

大体6−7時間で着くらしい。

満員の乗客は私以外全員現地民だった。

何十年分の汗の染み込んだ木造の座席と、

電車の地面に座り込み魚の燻製を売るおばちゃん達。

乗車率120%のローカル線は想像を超えた過酷さだったが、

昨日までの楽園生活とは真逆の現実が半面嬉しくもあった。

エアコンなんてもちろん無く、

人の汗と魚の燻製の匂いがこもり切った車内は地獄の様。

徐々に重くなっていくタンクトップが、車内の熱気を物語っていた。

 

2−3時間が経ち、徐々に減っていく乗客と薄くなる燻製の匂い。

線路沿いに住む現地民の生活を横目に、

景色は街並みから自然に変っていった。

そして4−5時間が過ぎ、やがて車内には一人になる。

あと何駅先なのかもわからない。

窓の外には広大な農園と米粒サイズに牛が見える。

私はその時何故だか幸福感で一杯だった。

窓から抜ける風が最高に気持ちよく、久々に現実世界に帰ってきた気がした。

人工的快楽では得られ無いナチュラルな幸福感が、

まだ着いてもいないのにすでに安堵を生み始めていた。

 

人工はやっぱダメだ。

 

アランヤプラテートに着いたのは、丁度日が暮れた頃。

駅員一人だけの何もないホーム。

あたりを見渡しても本当に何もない。

ここで一泊して、明日の朝国境を越える予定だった。

駅員にホテルはあるかと聞くと、急に電話をかけ始め、

何言っているかはわからなかったが10分もしないうちにタクシーが来た。

 

「ホテル?」

 

話しかけてくるドライバー。

彼は英語を軽く話せた。

 

「そうホテル。明日カンボジアに行きたいんだけど今日泊まる所探してて。」

 

「問題ないよ!乗って!」

 

言われるままにタクシーに乗り、

行き先もわからないままドライバーは車を走らせた。

会話もないまま20分ぐらいすると、

モーテルらしき場所につき、

痩せこけた野良犬達がタクシーに群がってくる。

見る限り客らしき人は誰もいなかった。

ドライバーは受付に行き話をつけ、手招きをする。

もはやフロントって言っていいのかもわからない古屋だったが、

問題なく受付を済ませ部屋に誘導された。

ホコリくさいモーテルの部屋。

数日まともに寝ていなかった私はベッドにダイブし、

久しぶりに寝られそうな気がした。

No more Pataya…

 

翌朝、部屋のノックで目が覚める。

ベッドにダイブした後、そのまま寝ていたらしい。

久々の爆睡にまるで病気が治った様な感覚がさらに好調にさせた。

ドアの前には昨日のドライバーが立っていた。

 

「カンボジアの税関もうちょっとで開くよ!」

 

どうやら朝一に行かないと混むらしく、

すぐに準備しろと言われ、

言われるがまますぐに準備をしてタクシーに乗った。

国境にはすぐに着き、ドライバーと別れ、

タイの出国審査を抜けカンボジアの入国に向かう。

タイとカンボジアの国境の間には200メートルぐらいの無法地帯みたいな場所があった。

何件ものカジノが立ち並び、無数の子供達が金をベグってくる。

何か妙な違和感が漂う場所。

べグる子供をかき分けてカンボジアの入国に向かった。

入国にはビザの取得がマストで、その場でビザを取得する。

やはり日本のパスポートは最強だ。

大体の国で何の問題なくすぐに入国できる。

簡単な入国を済ませて税関に向かうと、

隣のレーンでは白人のハゲたおっさんがモメていた。

 

無事カンボジアに入国。

現在地もわからないいまま、

まずはアンコールワットに向かうことにした。

国境の係員にアンコールワットまでの行き方を聞くと、

アンコールワットはシェムリアップという街あって、

タクシーで2時間ぐらいらしい。

とりあえずタクシー乗り場に向かうと、

結構な人数の観光客らしき人達。

列に並びタクシーを待つことにした。

 

「シェムリアップ行くの?」

 

背後からブリティッシュなまりの英語が聞こえる。

後ろに並んでいた白人のおっさんが話しかけてきた。

よく見るとさっき税関でモメてたおっさんだった。

 

「そうだよ。アンコールワットに行くよ。」

 

「私達もその辺りに行くんだ。一緒に乗って行かないかい?」

 

おっさんは3人組で、4人で乗ればタクシー代は安くなる。

断る理由はなかった。

 

「いいの?じゃあ一緒に行こう。」

 

「泊まるところは決まってるのかい?」

 

「いや何も決めてないよ。向こう着いてから決めようと思ってる。」

 

「じゃあ丁度いい。私達が泊まるゲストハウスに泊まるといい。きっと一部屋ぐらいしているはずだから。」

 

「それでお願いします。」

 

タクシー代が浮き、面倒が一個省けた。

好調な滑り出しのカンボジア。

パタヤからのリハビリはいい感じになりそうだった。

おっさん達はベルギーから来たらしく、

カンボジアには何度も来ていて、

いつもシェムリアップに滞在すると言っていた。

ただのカンボジア好きのおっさん3人組。

この時はそれ以上何も思わなかったし、何の疑問もなかった。

 

おっさん達はよく喋る。

テンションも高く正直軽くウザいぐらいだ。

無駄話をひたすら続けていると、あっという間にゲストハウスについた。

現地の子供達が仲良く遊んでいる。

見た目は質素だが、アンティーク調でいい感じのゲストハウス。

一階には吹き抜けのカフェバーみたいなものもあって、

しかもアンコールワットのすぐ近くらしい。

好都合だった。

 

タクシーから荷物を下ろしていると、

フロントから男が一人ニコニコ歩いて来る。

おっさん達の常連具合がわかるほどもてなされていた。

私を紹介してくれ、運良く部屋も空いていて、

結局そこに滞在することとなった。

カンボジアに来て以来、全ての事がスムーズに進んでいた。

案内人に話をよると、ここは孤児院が経営するゲストハウスだという。

オーナーはオランダ人で、孤児を引き取り、

ゲストハウスでは孤児達も働いているらしい。

 

話をしながら部屋に案内され、

荷物を置きロビーに降りると、子供達が沢山いた。

小さい子は5歳くらいから、大きい子は高校生ぐらい。

リビングでくつろぐ大家族の様だった。

 

カンボジア最初の夜。

どこに行こうか。

一階のカフェバーでボーッとしてると、

おっさんの一人の部屋から10歳ぐらいの男の子が出てきた。

 

ここの子だろうか。

 

足早にゲストハウスから出ていく少年。

 

ここの子じゃないのか。

 

すると隣の部屋のもう一人のおっさんの部屋からも少年が出てきた。

 

また足早にゲストハウスから出ていく。

 

ん?

 

そして3つの7が揃うかの様に、

最後のおっさんの部屋からも子供達が出て来た。

しかも今度は男の子1人女の子1人。

 

考えただけで吐き気がする。

ベルギーのおっさん達は児童買春目的の鬼畜供だった。

 

もう人には見えなかった。

 

遊びに行く気にもならず、一度部屋に戻った。

バッドから抜け出したくてカンボジアまできたのに、

違う意味でまたバッドに入りそうだった。

部屋にいたら頭がおかしくなりそうで、

またもう一度カフェバーに戻ると7、8歳ぐらいの少女が1人椅子に座っていた。

 

「ここに住んでるの?」

 

少女は軽く頷き、すぐに目線を外した。

 

「一人で何してるの?」

 

「絵書いてる。」

 

彼女は英語を話せた。

しかも見た目より落ち着いた口振りだった。

 

「俺はKIKI。今日から来たんだけど、よろしくね。名前は?」

 

「私はヤーイー。今週ここにきたの。」

 

聞くか迷ったが、思わず聞いてしまった。

 

「お父さんお母さんに何かあった?大丈夫か?」

 

「お父さん地雷踏んで死んじゃった。その後お母さんどっか行ったきり帰ってこなかった。」

 

カンボジアに長期滞在を決めた瞬間だった。

 

そこからヤーイー含め約20人の孤児達とのカンボジア生活が始まった。

 

 

 

 

 

前編 ー完ー

 

 

 

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第四話「フランスからの刺客、マイクとサマンサ」-後編 –

10th Jun 2020 by

 

 

Brooklyn is crazy as fuck.

 

バスタブのカーテンを閉め、手のひらが額を覆う。

確かに30、40センチほどの甲を描いた個体がいた。

今まで見たことのない光景に三本目の足が起立していた。

 

 

「テル君。」

 

「やっぱ…いたっしょ?大蛇?」

 

「いやテル君…大蛇ではないわ。」

 

「え?!嘘!?じゃあ何!!?」

 

「これ糞だわ。人間のかはわからないけど。」

 

「は?糞?何で!?なんでウンコがバスタブにあんの?!意味わかんないっしょ!」

 

犬も猫も飼っていなかったのに、バスタブにでんと構えた糞があった。

大蛇がバスタブにいるのも同レベルで意味わからないが、

この家はユニットバスだった。

隣にある便器を見たら誰だってパニックだ。

テル君も私も次第に背景を想像し、

遠くの方から物凄いスピードで笑いが込み上げてきた。

 

「いや、ウンコ……wwww何でwwwwwww?隣に便器あんのに?w」

 

「しかもデカすぎないw?これ馬レベルだよwww」

 

数分息が止まるほど笑い、笑死しそうなぐらいだった。

誰でも経験があると思うが、

相手とのタイミングが重なるとこういう笑いの連鎖的な瞬間があると思う。

底の深い壺に滑り落ち、腹を抱えて笑い転げた。

そして数分後壺からようやく抜けた頃、

当たり前のように現実と再会し次の展開へと流れていく。

 

で、これどうしよう。

 

ゴミ箱か、それか流した方がいいのか。

手掴みなのかトングなのか…

そして解決の策を練り始めると同時に、

根本的な疑問が肩を叩いた。

 

まずこれは誰の糞なんだ。

 

ルームメイトの二人は予告通り帰ってきていなかったから、

必然的に4人絞られる。

 

テル君、自分、マイク、サマンサ。

 

マイク達が昨夜帰って来ているか、

確認しようと静かにリビングに向かった。

彼らは帰ってきているのか?

もし帰ってきていなかった場合、

テル君が名役者か、自分が夢遊病なのか?

カーテンの前に行くとベッドが左右にゆっくり軋む音がした。

彼らは多分カーテンの奥で寝ている。

こうなるとマイクとサマンサへの疑いは半端じゃなくなった。

部屋に戻るなり糞の処理のことなんて完全に忘れた二人は議論を始める。

テル君は自信満々に切り出した。

 

「いや、あれはマイクっしょ。あいつ以外あんなの出ないよw」

 

「間違い無いわwマイクならあり得る。むしろあいつ以外無理だわw」

 

あっという間にマイクの糞と言う事に決まった。

大量の新聞を持ってバスルームに戻り処理に向かい、

笑い尽くしてしまった光景に特に騒ぐこともなく、

淡々と処理を済ませた。

朝食もあまり食べる気にならず、

支度をしてすぐにテル君と駅へ向かった。

 

道中の電車内では朝の出来事の話で持ちきり。

だが改めて話していたら次第にまた色々な事が気になり始めた。

突然現れた糞。

最初は疑問が笑いに変わって、

ここにきてまた笑いが疑問に変わってきた。

 

なんでマイクはすぐ隣にある便器を使わなかったのか?

 

フランスだと当たり前だったりするのか?

いやそれは無い。そんな国はない。

 

それか自分のがデカすぎるのをわかっていて、

便器を踏まえた配慮だったのか…?

 

疑問に答えはでなかった。

 

学校についてからも他の友達に今朝の話をすると、

皆ゲラゲラ笑っていた。

下ネタは国籍も年齢も関係なく、共通の笑いのツボらしい。

 

その日の放課後はソーホー周辺で、

クラスの友達とスケボーをしながら帰った。

UNIONとかREAD SPACEとか今はもうなくなってしまったけど、

ダウンタウンに行く時は必ずと言っていいほど行っていた気がする。

学生時代一番好きな遊び場だった。

小便くさい地下鉄のホームから上がると、

世界有数のファッション地区がダウンタウンにある。

雑誌から飛び出てきたようなモデルも、

ローカルスケーターも、ホームレスも街の一部で、

石畳のストリートに人が座っているだけで画になるような街。

当時21歳のパンパンの憧れを抱え込んだ私にとっては全てが衝撃だった。

 

ソーホーの隣のチャイナタウンで友達と別れ、

キャナルからQトレインに乗り、

フラットブッシュについた時には日は完全に暮れていた。

気がつけばもう戦いの最終夜。

フォーカスがいつの間にかづれたマイクとサマンサの滞在は、

学校での笑い話になっただけで、心配していた事はもう問題なさそうだ。

ただ今朝の真相はかなり気になる。

タイミングで今朝の事マイクに会ったら聞いてみようと思っていた。

 

いつも通り玄関のドアを開けたら大家のアキさんが来ていた。

 

「おかえりー。今日この子達最後だから乾杯しに来てたー。ご飯食べた?」

 

「いや食べてないです。一緒にいいんですか?」

 

それからアキさん含め4人で晩ご飯を食べることになった。

マイクとサマンサとは言っても数回話しただけで、

その時も特に会話も盛り上がらなかった。

というかマイクがホントに喋らない。

サマンサに日本の事や学校のこととか聞かれたぐらいで、

曲がれば行き止まりの会話の応酬が続く。

何とか場を盛り上げようと思い、

昨日のことを切り出したかったが、

食事中は気分が良く無い話だと思い踏みとどまっていた。

それから適当に微妙な時間はいつもより遅く過ぎていった。

食事を済ませて、部屋に戻ろうとした時マイクが話しかけてきた。

 

「KIKIタバコもらっていいか?」

 

「いいよ。今から屋上に吸いに行くから一緒行こうよ。」

 

マイクと階段をのぼり屋上に向かう。

昨日の事を聞く絶好のチャンスだ。

ただ何で切り出すかが問題だった。

ふざけた奴なら砕けた感じで聞けたが、

マイクは説明してきた通りの岩みたいな男。

会話の流れで持って行こうと思った。

 

「明日フランス帰るの?」

 

「いや、明日からロスに行くんだ。」

 

「そうなんだ。ニューヨーク楽しかった?」

 

「何回も来てるから楽しいとかは無いけど、いつ来ても好きな街だよ。」

 

「昨日はどこ行ってたの?」

 

「昨日は最悪だったよ。サマンサとクラブで喧嘩してさ。」

 

「マジで?最悪じゃん。でも仲直りしたならいいじゃん。」

 

「今はな。でも喧嘩の後怒りが収まらなくて俺は昨日帰らなかったんだ。」

 

「え…?どこのいたの?」

 

「クラブから友達の家にいって、そのまま泊まったんだ。」

 

「マジ?じゃあマイク今日の朝いなかった?」

 

「あぁ、俺は昨日友達の家に泊まって、今日アキが来るタイミングで戻ったんだ。」

 

「OH MY GOODNESS…」

 

 

サマンサに逮捕状。

 

この瞬間マイクのアリバイが成立してサマンサの逮捕が確定した。

もう今回は落ちた訳じゃ無い。

自ら壺に向かって頭から突っ込んでいく感じだった。

こんな状況で笑わない奴いるのかと思う。

急に一人で腹を抱えて笑い始めた私にマイクは驚いていた。

 

「どうしたんだ?何でそんなに笑ってるんだ?!」

 

マイクは少し笑っていた。

マイクが笑っていたのを見たのはその時が初めてだったと思う。

それからマイクに今朝の出来事から、

今の会話で犯人がサマンサだという事が決定的になった事を伝えた。

マイクはダムが決壊したように笑い始めた。

 

「嘘だろ!!!?何でサマンサはバスタブにしたんだw?!」

 

「いや知らねーよw!お前の彼女だろw!むしろお前がきいてくれよw!」

 

マイクはその後も涙が出るほど笑っていた。

テル君の大蛇と間違えたあたりにも相当くらっていて、

本当に楽しそうに見えた。

やっぱり下ネタは世界共通で笑えるらしい。

一緒に笑うと一気に距離が縮まる気がする。

これは国が違うとか、人種が違うとか関係ない。

かなりシンプルな事だが、すごく重要な事だと今でも思う。

 

マイクと私はそれから何本か余計にタバコを吸い部屋に戻った。

マイクがその後サマンサに事情を聞いのかは今も知らない。

 

翌朝、起きてキッチンに向かうと彼らはもう出て行った後だった。

マイクとサマンサは早朝に空港に向かったらしい。

今回もまたとんでもない奴らだった。

前回の女DJも、バスタブに糞をかましたサマンサも、

この家に来る奴の大体が想像を超えてくる。

 

人の記憶にいつまでも残るのは結果こういう人達だったりする。

腹も立つし、付き合っていられないとその時は思ってしまうが、

想像を超えてくる刺客達にはいつも視野を広げられてきた。

行動の個性がその人の個性だと私は思う。

外見のインパクトなんて二の次だ。

 

誰もいなくなったカーテンリビングには空虚感が漂っていた。

タオル片手にバスムームに向かい、シャワーの蛇口をひねった。

髪から身体を通り、シャンプー混じりのぬるま湯がバスタブに流れていく。

 

次は誰が入ってくるんだろう。

 

バスルームの小窓から見える朝のブルックリン。

今日のフラットブッシュも朝からラスタは騒がしい。

 

 

 

-完-

 

 

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第三話「フランスからの刺客、マイクとサマンサ」-前編-

3rd Jun 2020 by

 

 

一昨日CEOと電話をしていた時の事。

 

会話の途中で急に壺にハマり、

お互い息が出来なくなるぐらい笑いが止まらなくなった。

年に数回あるか無いかの爆笑だった。

 

ジョニーさん爆笑をありがとう。

 

言葉でも何かの瞬間でも、

一つのきっかけで誰かを思い出す事は多々あって、

一昨日の電話を切った後も、

爆笑の余韻に2人のフランス人を思い出した。

 

マイクとサマンサ。

この二人の名前を思い出すだけで今でも笑えてくる。

 

今回は学生時代にニューヨークで出会った、

2人のフランス人カップルについて書いてみたいと思います。

 

この話も長いので前後半で書きます。

 

 

ブルックリンのフラットブッシュ。

カリビアン達が朝から騒がしく無駄にでかい声を上げている。

いつもと何も変わらない朝だった。

 

その朝は爆音のベルに叩き起こされ始まった。

住んでいたアパートのベルはぶっ壊れていたのか、

火災報知器のように以上にうるさい。

丁度ブルックリンに来て1年くらい。

観光地も行きたかった場所も大体行き尽くして、

学校の友達が韓国人からヨーロッパ系に変わっていく頃。

イラついていたこのベル音も生活の一部になりつつあった。

 

玄関を開けに行くと、大家のアキさんが立っていた。

 

「おはようー朝からごめんねー。今日私の友達カップルがフランスから来るんだけど、3日間だけこの部屋に入れてくれない?リビング空いてるよね?」

 

「あー空いてますよ。先週DJのあの子出て行ったのでw あいつマジヤバかったんですよ。」

 

「聞いたーごめんねーw あの子かなりビッチだからさー。」

 

この家にはリビングに簡易的なカーテンをつけて、

無理やり部屋にした様な部屋があった。

自分も最初はそのリビングから住み始め、

部屋を所有するルームメイトが出ていくタイミングで、

ドア付きの部屋に徐々に昇格していった。

 

光熱費込みで月500ドル。

カーテンリビングは登竜門的な部屋だった。

 

その部屋に先週まで日本人の女の子DJが住んでいた。

毎晩の様に男を連れ込んでセックス三昧。

夜中になると半端ない喘ぎ声と、

マットレスのスプリングが跳ねる音が響く。

 

こいつ相当気合入ってるな。と思っていた。

 

あまりの頻度の高さに、

私含め普段いないことも多いルームメイト達も、

彼女のDJタイムには毎晩頭を抱えていた。

ルームシェアは同じ日本人でも揉める事は日常茶飯事で、

目的もジェネレーションも別々の人が一緒に生活するのは、

想像していたよりタフだった。

 

「じゃあもうちょっとでJFKに着くみたいだから、掃除しちゃうね。」

 

「了解です、自分も学校行かなきゃいけないんで帰ってきたら挨拶しますね。」

 

「オッケー、良い子達だから大丈夫だと思うからさーw」

 

 

っていうかカップルか…

良い子とかそんな事より、

その言葉が既に凶器だった。

あの女DJのトラウマが威勢よく走って来る。

目蓋がゆっくり閉じていきそうだった。

 

しかもフランス人。

 

色んな意味で想像は暴走していた。

 

部屋に戻り、支度を済ませ駅に向かった。

学校はマンハッタンの34丁目にあり、

9時から14時まで授業を受けて、

放課後は学校の友達とセントラルパークでチルするのが日課だった。

その日も真っ赤な目で帰宅すると、キッチンからアキさん声が聞こえた。

 

「あっおかえりー。この子達が朝言ってた友達のサマンサとマイク。」

 

目の前にはバンテリンのパッケージみたいなムキムキ男と、

笑顔爆発の180センチオーバーの女が立っていた。

 

終わった。

きっとリビングの床が抜ける。

 

フランス人と聞いて勝手に白人だと思っていたが、

彼らはブラックで、とにかくデカかった。

 

「よろしく。俺はKIKI。」

 

「よろしく。」

 

マイクはかなりクールな男だった。

言葉数は少なく、いい顔つきをしていた。

サマンサは見た目通りの気さくな子で、

フランスなまりの英語が印象的だ。

二人の社交性は対照的だった。

ムキムキのマイクは常に無付けているようにも見える。

それか単純にカーテンリビングにくらっていたのか。

そうだったとしても納得できる。

あの部屋は間違いなくカップルで泊まる部屋としては最悪だったから。

 

軽く挨拶程度に会話をして、すぐに部屋に戻った。

 

自分の中での決戦第一夜が始まった。

三日間だけだ。三夜凌ば平穏が戻ってくる。

それにマイクは見る限り秩序がありそうな風貌だった。

見た目はムキムキのボディービルダーみたいな身体で、

もろ体育会系だったが、同時に知的な印象もあった。

そもそも冷静に考えてみれば、

カーテンリビングで事を始めれば、

どうなるかぐらい想像しようと思えばできる事だ。

マイクならわかるはずだ。

そう言い聞かせ電気を消した。

 

.

.

.

 

携帯のアラームで目が覚めた。

一度も起きる事なく朝になっていた。

やっぱりマイクはわかってたか。

あのDJがイカれていただけで、あいつは常識人だ。

勘ぐりまくりの取り越し苦労がバカバカしくなり、

いつも通り支度を済ませて学校に向った。

 

その日の放課後、

学校で仲の良かったテル君が遊びに来ることになった。

彼は京都大学から3ヶ月だけ留学に来ていた、

完全なエリートだった。

接点も無く、バックグラウンドも全く違ったが、

彼とは何故か仲良くなり、たまに放課後はうちに来ていた。

テルくんはブルックリンが好きで、うちに来る度テンションが高い。

陽気な彼を連れて電車に乗り、フラットブッシュに向かった。

 

玄関を開けると、廊下の向こうにマイクとサマンサが見えた。

 

「元気?まだ外行ってなかったんだ?友達連れてきたんだけど入れて大丈夫?」

 

「問題ないよ。俺たちも今から出かけるところだから。」

 

マイクは今日もクールだった。

テル君にもマイクとサマンサを紹介した。

ここでもマイクは余計な挨拶以外の話はしなかった。。

軽い挨拶をして、カーテンの奥に引っ込んでいった。

 

テル君は部屋に入るなりマイクの筋肉のヤバさについて語る。

彼は筋トレが趣味だったから、マイクのヤバさを私の数倍感じていたらしい。

夜飯を作り、帰るのが面倒になったテル君はそのまま泊まることになった。

彼はハーレムに住んでいて、うちに来るとこうなるパターンが多い。

あのDJが出て行ったタイミングで一つルールが設立され、

誰か泊まる時は事前に了承を得るというのが、このアパートのルールになっていた。

 

他のルームメイトには皆にテキストを送り許可を取る。

当時一緒にシェアしていた人は、

あまり家にいない人が多くて、

案の定、彼らから今日は帰ってこないと返信がきた。

残るマイクとサマンサにも一応説明しておこうと思い、

リビングに向かいカーテン越しに問いかけた。

 

「マイク?いる?」

 

応答はなく、人がいる気配もない。

そりゃあそうだ。

三日間しかないニューヨーク旅行。

真面目に帰ってきている方がおかしな話だ。

多分テル君が彼らと鉢合わせることもないし、

あいつらも三日間だけの客で、同じようなものだ。

部屋に戻るとテル君はいつもの定位置の床で既に寝ていた。

 

マイク達が来て二回目の夜。

第二夜はもう戦う事すら頭になかった。

あの女DJのトラウマにマイクへの信頼感は圧勝していて、

昨日の勘ぐりは遠くの方で大人しくこっちを見ていた。

 

電気を消し、窓際で一服して寝た。

 

.

.

.

 

翌朝、ものすごい勢いでテル君に起こされた。

テル君は明らかにテンパっている。

 

「マジやばいって!どうしよう?!」

 

「は?!何が!?」

 

「大蛇がいる。」

 

「は?大蛇!?どこに?!」

 

こいつ頭良すぎておかしくなったか?

まるで意味不明だった。

 

「シャワー入ろうと思ったらバスタブの中に大蛇がいたんだって!すぐにカーテン閉めたからわかんないけど、40センチぐらいはあったと思う。」

 

「何言ってんの?バスタブに蛇がいるわけないじゃん。テル君なんか変なのやったっしょ?」

 

「やってないって!いやマジなんだって!見にきてよ!」

 

テル君から相当な焦りが伝わった。

以上に焦っていて信憑性すら出てきていた。

マジでバスタブに大蛇がいるのか。

いくらフラットブッシュでもあり得ない話だと思った。

 

テル君に連れられバスルームに向かい、

半信半疑で勢い良く思いっきりカーテンを開けた。

 

 

「OH MY GOODNESS」

 

 

私は一瞬で言葉を失った。

 

 

 

ー前編ー 完

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第二話「エジプトの大嘘つき、ハッサン」ー後編ー

27th May 2020 by

 

 

 

二番目のノックには明らかに緊迫感が混ざっていた。

 

 

無灯で白のセダンが近づいてくる。

無音に砂利を蹴るようなタイヤの音が際立って聞こえた。

細身でデニム姿に首元のよれた黄色いTシャツ。

車から降りてきた男は勢いよく窓をノックし、話かけてきた。

 

コンコン。

ゴン、ゴンゴンゴン。

 

 

「アリの友達か?」

 

 

は?アリ?

 

 

誰?

.

.

.

ハッサンが出発してから3時間ぐらい経った頃。

もう徐々に太陽が登り始めていた。

空っぽのバックパックを背負い出発したハッサン。

それからケツに根が生えたように、

ただ運転席で彼の帰還を待ち続けていた。

だがどれだけ待っても彼は戻ってこなかった。

 

「アリ?誰だよそれ。アリなんて知らない。ハッサンじゃなくて?」

 

「ハッサン?誰だよそれ。俺はアリのパートナーのアハメッドだ。お前がアリの友達のジャパニーズか?」

 

多分こいつは向かう途中にハッサンが何度も電話していた相手だった。

あの時何を話していたかわからなかったが、

私の事を会話の中で軽く説明していたのだろう。

何となく話の流れから察しがついた。

 

ただアリって誰なんだ?

あいつはハッサンじゃないのか。

今までのハッサンの行動や言動を巻き戻せば、

ハッサンが”アリ”なのだと認めるのは簡単だった。

ポジティブがネガティブにひっくり返える。

あいつの今までの自分への施しも、元気の良さも、

全て胡散臭く思えてきた。

さっき食べたクソ不味い豆のスープがさらに不味く思えた。

 

偽名に職種も不明。今は行方不明。

 

スリルだけを求めた興味本位に附帯した当たり前のカルマだった。

一度ひっくり返えった信用の裏は中々表には戻らない。

今までため込んだきた疑心感は破裂し一気に冷めていった。

信頼は割れた瞬間が一番冷たくて迷いのない全否定が肯定される。

 

あいつがハッサンでもアリでもどっちでもいい。

 

嘘まみれのクソ野郎だ。

 

もうドキドキ感なんてどっかに消えて、

その時は焦りを超えた怒りが湧いてきていた。

 

アハメッドは話を続けた。

 

「何度も電話しているのに、電話に出ないんだ。これはヤバイかもしれない。」

 

「は?知らねーよ。名前すら嘘ついてた奴なんて信じられないし、どうでもいい。」

 

「いやホントにヤバいんだって!こんな事今まで一度もないんだ。逃げよう。多分アリは捕まってる。ここにいたらオレ達まで怪しまれる。」

 

 

ノりでめくったページは最悪のシナリオの始まりだった。

そして同時に重要なことに気がつく。

 

逃げる?

どこに?

誰が運転する?

想像しても先が何も見えなかった。

ハッサンの家に荷物は全てあったし、

まず家の場所を聞いてもいなかった。

あいつ以外の知り合いもいなければ、

携帯もパソコンも何もない。

ハッサンが捕まった云々もそうだったが、

自分の行動に選択肢が無いことの方が恐ろしかった。

 

「ペンあるか?俺の番号教えるから、もしアリと出会えたら電話しろ。」

 

「いやペンなんてねーよ。電話もないし。帰り方もわからないし、荷物も全部ハッサンの家だ。マジどうすんだよ。」

 

「じゃあここで待つのか?勝手にしろ。俺は逃げる。こんなとこにいて誰かが来たら絶対怪しまれるからな。」

 

「じゃあハッサンの家まで送ってくれ!」

 

「無理だ。俺もアリの家の場所は知らない。あいつとは仕事以外関わりもないからな。」

 

そう吐き捨てたアハメッドは颯爽と自分の車に戻りどこかに行ってしまった。

助けてくれる可能性のあった唯一の男はいなくなり、

同時に唯一の綱は切れてしまった。

それから行き場も考えもなく、

“ハッサンの帰還”という、

薄すぎて今にも破れそうな期待だけを希望に、

ケツの根は深く運転席に伸びていった。

独り言が止まらず、

結構入っていたはずのタバコも底をついた。

さっき感動したばかりの砂漠やピラミッドは、

公園の遊具のように、

ただ当たり前にあるただの個体に見えてきた。

 

一回寝よう。

 

 

何なら誰か気絶させてくれ。

 

 

運転席の座席を思いっきり倒し、目を閉じた。

 

.

.

.

暑い。

クソみたいに暑い。

 

あれからどれくらいが経ったのか。

完全に夜は明けていて、

空は頭にくるほど爽快な青だった。

皮肉なほど今の自分の状況とは別の青。

 

駐車場には続々と車が入ってきている。

ピラミッドの観光客が増えてきていたようだった。

本当はあの観光客のようにワクワクしてくるはずだった。

今すぐあの一部になってヘラヘラしたい。

何が旅人だ。普通最高。観光客最高だ。

理想と本性が絡まりぐにゃぐにゃだった。

とりあえず大使館にでも行くか。

でも何か別のシナリオをでっち上げないといけない。

下手に正直に話して共犯扱いにでもなったら、

多分強制帰国か、

エジプトでジェール行きだ。

それか日本人の観光客見つけて助けを乞うか。

出てくる全ての選択肢がネガティヴなものばかりだった。

進んでいく悪い展開に次のページをめくる力も度胸もない。

決め切れず決断を躊躇していたらダラダラと時間だけは過ぎていった。

 

そこに見たことのある白のセダンが向かってくるのが見えた。

 

アハメッドだ。

 

 

「お前まだいたのか!?」

 

「行くところがないからな!ハッサンから電話きたか?」

 

「いや….あいつやっぱり捕まったらしい。さっき友達の警察に電話したら勾留されてると言っていた。」

 

 

警察の友達?

また嘘をついていると思った。

まずお前誰なんだよ。

そんな奴がいるなら最初からそいつと組めよ。

これも嘘か?

 

「本当かよ。じゃああいつどうなるんだよ?」

 

「まだわからないけど、罰金を払えばでられるかもしれない。お前いくら持ってる?」

 

「は?俺が払うのか!?イカれてんじゃないのか?俺は絶対払わない。」

 

「じゃあお前これからどうすんだ?」

 

 

言い返す言葉がなかった。

ハッサンが釈放されないと自分も進まないという方程式に見事にハマっていたからだ。

ただ不幸か幸か、

ハッサンの家で着替えた時、

金とパスポートは首から下げて肌身放さず持っていた。

 

全財産は大体US2000ドルと、少しのエジプトポンド。

 

久々の選択権。

払ってハッサンの家に戻り荷物をまとめてすぐ出て行くか。

払わず…その先が出てこなかった。

 

「いくらであいつは出られるんだ?」

 

「わからないが多分1000ドルあれば足りると思う。」

 

全財産の半分。

払わなきゃハッサンは出られない。

ハッサンが出られなきゃ家にも戻れない。

 

まだまだ旅を辞める気もなかったし、

旅は当然多少金がかかる。

でもどの国でも小銭稼ぎぐらいはできるようにはなっていた。

旅の金なら何とでもなる。

環境を金で買おう。

罠でもなんでもいいから前に進むことにした。

 

「じゃあ1000ドル出すから、警察署まで連れて行け。」

 

「わかった。」

 

それからアハメッドとハッサンが勾留されている警察署に向かった。

ギザなのか、どこなのかもわからないが一応本当に警察署だ。

内心仕組まれてた罠だとも思ってたから、少し安心してしまった。

 

アハメッドはちょっと待ってろと言い警察署に入っていった。

昨日のハッサンとホテルを探していた時がフラッシュバックした。

 

20、30分後。

 

助手席からアハメッドとハッサンが歩いてくるのが見える。

車を降りるとハッサンが泣きながらハグしてきた。

クソ暑い猛暑の下で汗だくのエジプト人のハグは強烈なものだった。

 

「KIKIお前は私のヒーローだ。ありがとう。ありがとう。ありがとう。」

 

話を聞くと、ハッサンはセキュリティーの連れと揉めて、

その場で通報されそのまま逮捕されたらしい。

二行で済ませられるほどマジでくだらなかった。

でもとりあえずこれで帰れる。

荷物を取って、ホテル探して、こいつとはサヨナラだ。

 

アハメッドにピラミッドの駐車場まで送ってもらい、

ハッサンと帰路につくことになった。

無言の車内。

あの元気な男の面影はない。

あのハグ以降何一つ話しかけてこなかった。

私自身も話す気もなかった。

 

家に着き、すぐに荷物をまとめ始めた。

今すぐここから出たい。

パッキングをする私にハッサンが話しかけてきた。

 

「屋根の上で一緒にシーシャを吸わないか。」

 

これがこいつとの最後の一服だと思った。

多分こいつに会う事はもう無い。

 

「いいよ。最後に一服しよう。」

 

屋根の上に登り、見えた空は昨日と全く同じような色だった。

隣にいるやつも、見える景色も全く同じ。

一つの違いは出会いの一服なのか、

別れの一服なのかという点だけだった。

 

たった1日で全てが変わった。

嘘がそうさせたのかは今は正直わからない。

あの時ハッサンが無事帰って来ていたら、

今日も笑って一緒にシーシャを吸っていたはずだ。

失敗した結果、嘘が憎しみに変わった。

結局あいつの嘘より、

追い詰められた自分の環境に動揺していただけなのかもしれない。

 

「KIKI。本当にありがとう。助かった。」

 

「いやもう良いよ。これを吸ったらホテルを探しに街に行くわ。」

 

「じゃあホテルまで送ってやる。俺は今日もまたピラミッドに行くからな。」

 

「は?また捕まるじゃん?何言ってんだ。」

 

冗談だと思って、笑ってしまった。

 

「俺はこの家の全てをピラミッドの石で作りたいんだ。今は壁だけだけど。休む暇はないんだよ。」

 

本気で言っていた。

アタオカだった。

 

「今日も捕まったらどうすんだよ?俺はもう金出さないぞ。」

 

「わかってるよ。でも俺はとにかくそれ以外はどうでも良いんだ。」

 

「てか、あのアハメッドって奴はなんなの?ただの友達?」

 

「あいつは俺のビジネスパートナーだ。あいつにいつも採石した石を半分売っている。」

 

「あいつは何に使ってるんだ?」

 

「知らない。俺はただ売ってるだけだから。俺には関係ないことだろ。俺は家が完成すればそれでいいんだ。」

 

 

ハッサンは自分勝手さと猛進感が半端ない。

人に迷惑かけまくりの盗人だし、

決して褒められるような人間ではないが、

逮捕されても、何をされても、こいつは止まらない気がした。

日本にいたら間違いなく後ろ指を刺されるような存在だ。

ただ、私はそれだけの情熱で何かに向き合ったことはなかった。

好きで始めて続けてきた写真ですら、そこまで向き合ったことはなかった。

仕事も楽しんだもの勝ちだなんて言うが、

それは結局矯正なのか、強制なのか。

無意識に出てくる探究心の前では相手にならない。

ハッサンの目的に向かう力は明らかに後者だった。

 

スーツケースをハッサンの車に乗せ、街に向かった。

ホテルは自分で探すから、街で適当に降ろして欲しいと伝えた。

 

「オッケー!オッケー!」

 

ハッサンのテンションは戻っていた。

街の中心地に着き、別れ際、

ハッサンから新聞を破いた小さな紙を渡された。

 

「何?」

 

「俺のEmailアドレスだ。また何かあったら連絡してくれ。」

 

「メールするよ。送ってくれてありがとう。アリ。」

 

「アサラマライコム」

 

ハッサンは手を合わせて笑っていた。

 

 

それから私は5日間エジプトに滞在し、アルジェリアへ向かった。

ハッサンとの出来事の後は何の問題も無く旅は続き、

アフリカ大陸に入って一週間以上が経って、

徐々に身体も北アフリカに慣れてきた感じがあった。

アルジェリアのゲストハウスで不意にハッサンを思い出した。

別れ際にもらった紙を取り出し、

メールを送ってみようと思った。

 

あの時の自分の思ったことや、

その後の事もとにかく色々書いた。

良いことなんて一つもなかったし、

たった1日一緒にいただけの奴なのだが、

多分ハッサンの事は一生忘れないと思う。

 

メールは長文になってしまった。

ハッサンがちゃんと読めるか不安だったが、

言いたい事全部書いて送った。

 

2秒くらいで返信が帰ってきた。

 

 

Delivery Status Notification.

Unknown Email Address.

 

 

 

– 完 –

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第一話「エジプトの大嘘つき、ハッサン」- 前編 –

20th May 2020 by

 

「この人アタオカじゃん。」

この間テレビを見ていた嫁さんが不意に言った言葉。

「アタオカ?どういう意味w?」

「え?頭おかしい人。」

略され方が完全に令和だった。

嫁さんから教わる現代語は少なくない。

いつも勉強になる。

 

今回は、私がエジプトで出会った「アタオカ」の話を書いてみたいと思う。

この話は結構長いので、前後半分けて書きます。

 

 

気温40度、湿度10パーセントぐらい。

暑い。

とにかく暑い。

汗が止まらない。

額から汗が垂れ流れていく。

 

カイロに着いたのは、ちょうど昼頃だった。

乾ききった空気にムスリムの大群。

初のアフリカ大陸にテンションはかなり上がっていた。

明日も明後日もその先も予定はなくて、

とりあえずピラミッドが見たい。

エジプトに来た理由は本当にそれぐらいしかなかった。

まずは寝床を探すこと。

ピラミッドのあるギザ地区までタクシーで向かう事にした。

 

アメリカとかヨーロッパではあまり無いが、

貧困な国ではタクシードライバー達から

日本人はスター来国ぐらいの出迎えを受ける事が多い。

この国でタクシーを捕まえるのは難しくないのは、

目の前の街を見ていればわかった。

 

スーツケースを転がす私に、早速話しかけてきたターバンを巻いた男。

伸ばしっぱなしの髭になんとも言えない三白眼が印象的だった。

 

「ジャパニーズ?ピラミッド?」

 

片言の英語で話しかけてきた。

 

「そう、ジャパニーズ。タクシー? ピラミッドも行きたいんだけど、

まだ泊まるところも決まってないんだ。」

 

「オッケー!オッケー!じゃあ友達のホテルにまず連れて行くよ!それからピラミッドに行こう!今から俺はお前の専属ドライバーだ!ラッキーだな!」

 

勝手に話が進み、一方通行の会話が始まる。

登場人物だけが違う、いつも同じストーリーの連続ドラマのように、

飽きるほどリピートしてきたこの光景。

こういう場合は車に乗ってから、

金が全く無いことを伝える。

リスキーな行動だけど、

乗る前に金が無い事を伝えると、

顔色が急変して冷たくり、次。

みたいな感じで無視されたりする事が多かったからだ。

もう乗せてしまったから仕方がない。

という方向に持っていくのが常套手段だった。

 

「完璧じゃん。じゃあまずホテルに荷物置きたいから行こっか。」

 

スーツケースをトランクに乗せて、後部座席に乗り込んだ。

ターバンの男はご機嫌のようだった。

 

「名前はなんていうんだ?」

 

「KIKIだよ。あなたは?」

 

「俺はハッサンだ!」

 

 

 

この瞬間から今回の話は狂い始める。

 

 

 

走り出して10分ぐらいした頃。

ハッサンに金が全然無い事を伝えた。

もちろんタクシー代ぐらいはあるけど、

お前を専属ドライバーにできるほどの金もないし、

紹介するホテルも激安で頼むと伝えた。

 

「オッケー!オッケー!全然問題ない!」

 

ハッサンの反応は意外だったが、

ほかに当てがある訳でもなく、

とりあえずハッサンに身を任せることにした。

当時は何も後先は考えていなくて、

死ななきゃ何でもいい。

そんな考えでいる事がかっこいいと思っていたのだ。

トラブルにダイブする感じ。

 

思ったより早くホテルに着いた。

まあまあ綺麗なホテル。

高そうだが、大丈夫か?

物価も何も調べないで旅を続けていたから、

現地の金の価値観もわかっていなかった。

ハッサンはちょっと待ってろと言ってロビーに向かった。

 

待つ事数分。

 

「だめだ、今日は満室らしい。」

 

「そっか、じゃあ違うホテルで頼む」

 

「オッケー!オッケー!」

 

ハッサンはずっとテンションがかなり高い。

でもそれはドラッグとかでは無い感じのエネルギーみたいなものだった。

運転中たまに真顔になる時もあって、顔が冷たく尖る時があった。

人間っぽい顔っていうか、シリアスな感じというか。

このギャップが少し気味が悪かったが、そのままドライブは続いた。

それから結局、何件もホテルを転々とする事になった。

当日空いているホテルが全くない。

そんな事あるか?

いくら観光地でもおかしい。

ハッサンへの疑心感はどんどん高まっていた。

補正されていないポンコツ道路を軽快に走る中、

ハッサンが急に聞いてきた。

 

「俺の家に泊まるか?」

 

探すのがめんどくさくなったのか、罠なのか。

一瞬戸惑ったが、

 

「マジ?いいの?じゃあ頼むわ!」

 

そして結局ホテルでは無く、ハッサンの家に向かう事となった。

旅の中で常に”ノリ”のプライオリティーは高くて、

“ノリ”の先にいつもとは違う世界があると思っていた。

ただ乗るタイミングは選ばないといけない。

サーファーが波を選ぶのと同じように、

乗れないと飲み込まれるから。

 

またそれから20、30分。

今自分がどこを走っているのかもわからないまま進む。

賑やかな商業的な景色から、

生活風土全開のゲトーな住宅地に景色が変わっていった。

車から見える地元の人達が貧困なのは一目瞭然で、

強烈な異国感に少し背筋が伸びた。

 

「着いた!ここが俺の家だ!」

 

ハッサンの家は辺りから孤立していて、

石を積み上げて作ったようなボロボロの家。

独特なお香のような匂いがした。

間取りは一応2DK?ぐらい。

石なのかコンクリートなのかわからない、

乱雑に積み上げられた壁も隙間、穴だらけ。

風も砂も虫も外人もウェルカムな家だった。

案内された部屋にはベッドしかなく、

想像以上に汚かったし、枕もベッドもホコリまみれ。

シーツすらなかったけど、

ベッドがあるだけでもありがたかった。

 

一通り着替えを済ませて、

パスポートと現金の入った紐付きポーチをTシャツの中にしまい、

キッチンに行くとハッサンが夕飯を作ってくれていた。

ボコボコの鍋でグツグツ何かを煮ている。

宿から飯までこいつはどこまでやってくれるのか。

やっぱ罠か?

疑う癖がついて濁ったありがたさが湧いてきた。

 

夕飯はハッサンが作ってくれた豆のスープに付け合わせの変な形のパン。

クソ不味かった。味がない。感じ。

でも手作りは嬉かった。

なんでハッサンは見知らぬ自分にここまでしてくれるのか少し怖かったけど。

 

夕飯を済ませると屋根の上に行こうと誘われ、

ハシゴを登り屋根の上に登った。

風がめちゃくちゃ気持ちいい。

エジプトは夜と昼の寒暖差が激しくて、

夜はけっこう涼しいからギャップで余計気持ち良く感じる。

後から登ってきたハッサンがシーシャを持ってきた。

何かエジプト感が出てきた感じがした。

屋根の上で二人でシーシャを吸い、ボーッとしていた。

 

「何から何までありがとう。少ししかないけど金払うよ。」

 

「いいよ!問題ない。お金もいらない。」

 

「じゃあ何か掃除でもするよ。あと何日かエジプトにいたいから何泊かさせて欲しいんだ。」

 

「何泊でも泊まっていいぞ!ただ手伝って欲しいことがあるんだ。」

 

ついにきた。

入国以来止まらない汗の種類が変わっていくのがわかった。

 

「なに?」

 

「家の壁の石、あれは全てピラミッドから持ってきた石で作られているんだ。神聖な物なんだ。それを取りに行くのを手伝って欲しい」

 

「え?ピラミッドの石?って持ってきて良いの?

ないない。あり得ない。ピラミッドから盗んでくるって事?」

 

「簡単に言えばそうだ。あの壁も少しずつ持ってきて自分で作ったんだ。」

 

嘘としか思えなかった。

まず神聖とか言いながら盗む事自体イカれてないか?

それにイスラム教では盗みはかなり重罪なはずだった。

サウジアラビアでは盗みだけでまだ死刑があるとも聞いたことがある。

あと、削るってことなのか、近くの石を持ってくるのかも、何もかもが曖昧だった。

 

「どうやって持ってくるの?俺は何をすればいい?」

 

「俺がバックパックパンパンに入れて持って帰る。セキュリティーは俺の友達だから大丈夫だ。お前は車の見張りをしてくれればいいだけだ。」

 

何故か引けない感じがあった。

男だから的な引きたくない感、というか。

そしてまたハッサンに身を任せることにした。

 

「いいよ、やろう。いつ?」

 

「今夜だ。ありがとうKIKI。深夜1時に出発するからそれまで仮眠しよう。」

 

今夜?

初日にっていうか、初ピラミッドが盗みか。。

 

要はハッサンが石を取りに行っている間、車に乗り待っていろとのことだった。

誰か来ても、自分の車かのようにしてやり過ごせばいいらしい。

なんだそれ?

無計画すぎるし、自分のポジションが必要なのかもわからなからなかったが、

結果やる方向で進んでいった。

シーシャを最後ワンショット吸い、意味も否定も忘れてとにかく仮眠をとる事にした。

 

深夜1時。

出発の時間。

ハッサンはバックパッカーが持っているような、

真っ赤の大きなリュックを背負っていた。

いつもの作業なのだろう。

じゃあ行こうか。ぐらいの感じで出発。

ピラミッドまでの間、ハッサンの仕事について聞いてみた。

 

「ハッサンはいつからタクシードライバーなの?」

 

「いやタクシードライバーじゃないよ!俺はハッサンだよ。」

 

「え?じゃあ何やってる人なの?」

 

「だからハッサンだよ!仕事がハッサン!」

 

。。。

めちゃくちゃ笑いながら言っていた。

これ以上聞くと面倒な感じがして、それ以上の事は聞かなかったが、

いよいよヤバイか?

今まで見て見ぬふりをしてきたハッサンへの疑心感も、

でかい顔で笑っていた。

 

なかなか着かない。

ハッサンは何度も急に車を停めて電話を始める。

何を言っているか全くわからないから、もはやBGM感覚だ。

後で知ったことだけど、電話中ずっと右にあった川は、ナイル川だったらしい。

社会の教科書で見てたやつ。ただの川だった。

電話が終わりまた走り始め、遠くの月明かりの下にピラミッドが見えてきた。

街との距離感の近さもだったが、とにかくデカさに喰らう。

実際見るとマジででかい。奥には無限の砂漠があった。

でかい物を見ると見てきた物も小さく感じたりするが、

デカすぎる物を見るとその一部になってしまう気がする。

飲み込まれたのか。大袈裟なだけか。

衝撃すぎて感傷的になっただけなのか。

固まった感覚を大袈裟な感情が壊すこの瞬間が好きだった。

泣くことは良いことだというけれど、同じことだと思う。

 

そしてギザの街を抜けて、ついにピラミッドに着いた。

砂利の駐車場にセキュリティーの車なのか、

1台だけ車が止まっていた。

ピラミッドは目の前。

これから隣の運転手は目の前のこれを盗みにいく。

ただそれだけの事。何もなく帰って、爆睡だ。

明日は何をしようか。エジプトの次どこに行こうか。

何も起こらない。

ビビる気持ちを殺すのに必死だった。

 

 

大丈夫。

 

 

大丈夫。

絶対大丈夫。

 

 

 

前編  完

 

 

KIKI

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PROLOGUE

13th May 2020 by

 

 

久々にブログを書きます。

自分は写真家だから、

文章で表現するのはどうも気が乗らない。

というクソみたいな概念がようやく無くなったので、

久々にキーボードを叩きます。

2、3年ぶりの投稿ですが皆さんの暇つぶしにでもなればと思います。

NBT君きっかけをありがとう。

 

最近コロナのおかげか、本を読む時間が増えた。

本を読んでいるとラッパーはすごいな。と感心する。

一つの文章でも言葉の並べ方を変えて言葉の聴こえ方を変えてくる。

しかも音の上で。

言い回しにいつもやられてます。

ラッパーかっこいいです。

 

小学校5年の夏休みに、親父から初めて本をもらった。

本の題名は「嫌ならやめろ」。

え?これ?

って感じだった。

どう見ても現状に頭を抱える大人達に向けたビジネス本で、

間違いなく11歳の子供が読む本ではなかったし、

読めない漢字ばかりで、

小5の私にとってはかなり強烈なインパクトだった記憶がある。

だけど面白いもので、

自分にとってそれが初めて本を好きになったタイミングだった。

私は物書きでもなんでもないけど、

せっかくの文章を書く機会なので、

あの頃の自分を動かしたように、

微力でも誰かの何かを動かすものになって欲しい。

という思いで定期的に文章を書いてみようと思います。

 

継続と活字の力。

これが今回のここでのテーマ。

 

前談として自分の簡単な経歴を書いてみます。

長いので端折りながら、書きます。

 

私は今33歳。

幼少期からサーカス団のように転々と国内での転校を繰り返していた。

20歳の時ニューヨークに移住しそれからの約4年間を、

ブルックリンのフラットブッシュでカリビアンに囲まれて過ごした。

写真を始めたのはニューヨークに住み始めて1年くらいしてから。

移住前にじーちゃんからもらったコンパクトカメラが始まりで、

写真にのめり込んでからはフィルムカメラでずっと写真ばかり撮っていた。

 

24歳の頃、

あるきっかけでニューヨークからスイスに移住し、

さらにまた色々あってスイスにいる理由がなくなり一人旅を始めた。

一人旅は英語を覚えてからは最もチャレンジしてみたかった事だったし、

何より自分の事を誰も知らない場所で0から始めたかったのが1番の理由だった。

 

スイスからヨーロッパ大陸を周り、

北アフリカを何カ国か横断し、

それからアジア大陸を周った。

旅中は本当に毎日適当に生きていた。

好きな時間に起きて、

小銭で飯を食い、

色んなものでハイになって毎晩パーティー三昧。

怠け者で、嫌いな事はフルシカト。

今あの瞬間に戻りたいかと聞かれれば間違えなく断る。

これは旅の否定ではなく、

同じ事は繰り返したくないとう意味で。

後悔は一切ない。

今では極力避ける危険をあの頃はむしろ探していたんだと思う。

金も全くなかったけど、とにかく楽しかった。

 

そして何より自分と話す時間が無限にあった。

 

お前は誰なんだ?

何ができるんだ?

差別ってなんだ?

生きるってなんだ?

どれだけ恵まれているんだ?

 

直球しか投げられないピッチャーのように、

ストレートな自問自答を繰り返しながら毎日地球を歩く。

今では赤面してしまうほどの真っ直ぐさだけど、

正直な気持ちだったのだろうと、

認めてやりたい気持ちもある。

今友達や家族といる時間はとても大切な時間だけど、

それができないとその大切な時間は続かないと気がつけたのは、

多分あの直球ピッチャーのおかげだと思う。

 

旅を終えて日本に帰ってきてからは、

写真でどう飯を食っていくかを考えた。

それからの事は本当長過ぎるんで今は端折るが、

色んな縁のおかげで、

2016年にはじーちゃんのコンパクトカメラが制作会社に変わった。

全然大きな会社ではないが、

一応やりたい事で飯を食うという第一目標は達成したのかな。

ようやく靴を履けた感じがした。

ようやく始まり。

 

今に至る経緯はそんな感じです。

少しでも伝わっていたら嬉しいのですが。

 

改めて自分を振り返って、

旅の中での個人的な変化や、

日本で会社になるまでの過程の事は、

今書く事ではないと思います。

何を成し遂げた訳でもないし、

私くらいの人間は世界にも日本にも星の数ほどいるので。

あと20年後くらいに書いてくれと言われるくらいの人間になっていたいとは思います。

精進します。

 

そこで今の自分で共有できる事はないかと考えました。

出会ってきた世界の人達にフォーカスするのは面白いかもしれない。

今まで旅を通してぶっ飛んだクレイジーな人達や、

自分の過去に罪悪感が生まれるほどピュアな人達と出会いました。

この人達との”出会い”の共有に関しては自分にしかできないものだと思い、

書いてみたいと思えました。

 

誰も旅に出て同じ人とは絶対に出会わない訳で。

私自身何か変化を求めて旅に出たものの、

世界遺産を見ても、

どんなに綺麗な夕日を見ても、

どれだけハイになっても、

なんの変化も訪れなかったです。

ただ現地で出会った人達から学んだ事は、

確実に自分の思考を変えてくれました。

生きる上での視野を広げてくれ、

今の自分にとって最も重要な事だったと思っています。

 

出会いこそ人生の醍醐味だと私は思います。

これは言い切れる。

偏見は人生をつまらなくする。

 

これから私の記事を読んで、

少しでも世界に目を向けて、

日本にいても広い視野で人を見られる若者達が増えてくれれば嬉しいです。

ということで今日は水曜日なので、毎週水曜日にしよう。

期間は半年。24回。

 

私が出会ってきた世界の魅了に溢れた人達を毎週紹介していきたいと思います。

暇つぶしに使ってください。

 

来週水曜、第一回は「エジプトの大嘘つき、ハッサン」です。

 

よろしくお願いします。

 

 

KIKI

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For Young People

13th Apr 2017 by

夢中になれるものに偶然に出会い、好きになり、人生の仕事にしたいと思った。

すぐには金は稼げなくて、日銭暮らしの毎日を送った。

色々な人に助けられながら、少しずつ状況はよくなったが我慢の日々が続き、

その途中で胸が裂けるほどの恋をし、子供が生まれ、守るものができた。

でも家族を養っていくには金がかかった。

自分の夢と家族を天秤にかけ、家族選び安定した所得の仕事に就いた。

すると、家族の幸せや子供の成長が生き甲斐になった……

たくさんの人の生き方を見て、人生色々な形があると思った。

ufffff

「飛行機が飛ぶには追い風と向かい風が必要」

自分が尊敬するある料理人の方にもらった言葉だ。

あなたが何か壮大な夢を描き、誰かに夢の話する時、

90%の人はリスクと現実の話をするだろう。

自分が写真を始めた時はそうだった。

でも残りの10%人はワクワクした目で自分の夢を一緒に眺めてくれた。

そして彼らは魚はくれなかったが、魚の釣り方を教えてくれた。

言わば追い風10%の、向かい風90%。

今思えば10%も追い風が吹いていた時点で大分ラッキーだったと思う。

今でもこの10%に救われる。

もしあなたに1%でも一緒に自分の夢を眺めてくれる人がいるのなら、今すぐ飛ぶべきだ。

諦める理由はどのタイミングにも目の前に落ちている。

辞めなきゃ、叶う。と信じています。

KIKI

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Dirty Sanchez

12th Mar 2017 by

 

 

今回はD.D.SとFeatしたDirty Sanchez of PROERAについて簡単に書いてみます。

彼と初めて会ったのは2015年の夏。

LafayetteのLookbookの撮影でPROERAを起用させてもらった時だった。

今ではPROERAはJoey Bada$$のヒットから世界的なクルーにまでなりつつあるが、

その時は今よりもアンダーグランドだった。

撮影後、撮り下ろした写真をPROERA側にに送ったらすぐにDirtyから制作依頼の折り返しが来た。

そこから彼とのワークが始まり、Music Video、アーティストフォト、カタログ撮影を共作し、

他のPROERAメンバーから地元の友達までたくさんの人を紹介してくれた。

いろんな意味で、マジで?っていう空間にも何度も突っ込まれたから記憶が大分濃く残ってる。

 

 

PROERAは元々BrooklynのEdward R. Murrow High Schoolの高校生達が、

学校前の公園でのフリースタイル遊びから始まったらしい。

DirtyはMurrowの生徒ではなかったが、近所に住んでいてよく公園でチルしていた。

そこでCapital Steezに出会い、フリースタイルに入れてもらったのがラップを始めたきっかけだった。

Joey Bada$$とCapital Steezの“Survival Tactics”が高校在学中に注目を集め、

ブルックリンの若者の中でストリートアンセムとなった。

PROERAというクルーが注目され知名度を上げる中、2012年12月24日 Capital Steezが他界。

Steezが残した「47」というキーワードをクルー皆が今も継承している。

DirtyはSteezの一番近くにいた存在だった。

Dirtyはいつでも会話の節々に「47」というキーワードが入る。

「47」はLifestyleだという。目には見えない使命感みたいなものを感じた。

 

彼と制作を繰り返し、彼のラップスキルは言うまでもないが人間性からもラップに説得力が増す。

DDSとの曲を聞く前に是非彼やPROERAをチェックしてみてください。

 

 

近い将来彼らを日本に連れてこようと思っています。

 

 

 

 

 

KIKI

 

 

 

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DDS x Chelsea Reject X Dirty Sanchez of PROERA X DJ MITSU THE BEATS

27th Feb 2017 by

 

 

4月に新しいMVを2本公開します。

DDS feat. Chelsea Reject [Produced by DJ MITSU THE BEATS]

DDS feat. Dirty Sanchez of PROERA [Produced by DJ MITSU THE BEATS]

今回はDDS、Chelsea Reject、Dirty Sanchez、DJ MITSU THE BEATSとの合作。

とにかくDDSがやばい。

KIKI

 

 

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250円

24th Nov 2015 by

89040001

 

シャネルか?

イブサンローランか?

いつか嗅いだ事のある香水の香りがする。早朝の瞼が重たい腰をあげ、視点の先に早々にがっかりした。

今月の13日からニューヨークに戻った。僕のアパートメントはブルックリンのフラットブッシュ沿いにあり、その地域は特にカリビアンの多い地域で朝から晩までパトワ語(ジャマイカの言葉)が聞こえてくる。騒がしくて、ゾンビ化したホームレスも結構頻繁にいるし、決して治安のいい地域とは言えない。そこからLafayetteの事務所がある同じブルックリンのグリーンポイントまでは、地下鉄を乗り継ぎ約40分で着く。グリーンポイントはイカレテル奴も、うちの近所に比べれば比にならないくらい少なくて、治安もかなり良い。学生の頃はブルックリンのゲットーな生活にどこか憧れがあって、いや、、、正直ゲットーな生活をしている自分にでも満足していたのだ。いろんな意味で真っ青だ。

今日も眠気とブラックコーヒーがビーフの中、早朝のニューヨークの地下鉄は現実的だった。本当にサラダボールが揺れている。白、黒、黄色、ラティーノ、インディアン……..イメージ通りの地下鉄の中で朝からリンゴ食ってる奴などはまず見ない。日本と何も変わらない、彼らにとっての”いつも”があるだけで、大体がI phone片手に今日も眠たそうだ。ところで、ニューヨークで聴くビギーはいつもよりもジューシーだ。音楽で道中の40分間がかなり豊なものになる。それだけというわけではないけど、ニューヨークにいる時はニューヨークアーティストを聴くタイミングが自然と多くなって、毎回新たなアーティストに出会う。前回はハーレムで出会ったSmoke Dza。最高にクールなラッパーだ。目の前の画と耳の奥の音楽が重なると不思議な気持ちが沸いてくる。普段は波を打たないバロメーターが好きなのに、殴り書きの絵のような乱暴に跳ねるテンションが心地良い。大袈裟でものすごくスクエアーな考えだと昨日の煮え切らないリンゴが馬鹿馬鹿しく見える。超感覚的快楽ドラッグだ。一曲 250円。よく考えて欲しい。これは馬鹿みたいに安い。

プラットホームを上がり地上に出て、マンハッタンアベニューを下れば事務所だ。もう通いだして2年以上が経つ。近所にも知り合いもたくさん出来たから、歩く時は音楽を止めて極力人と話す事にしている。朝の挨拶は気持ち良くて、今日もいつも自転車を押してる白人のおじーちゃんに無視された。これはある意味でこれでいいんだ。ある日挨拶されてしまったら、何かが終わってしまった気になりそうだ。変わらないで欲しいなんて想う気持ちは本当に勝手なものだ。

事務所までの最後のデリで眠気覚ましにレッドブルを一本買った。

一気に飲み干して、エレベーターを上がり事務所に着いた。

デスクに座り今日も思う。

やっぱり音楽が安すぎる。

KIKIhumanmonochrome

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